橙-1
なんとなく、理由も分からずにウキウキした気分で
待ち合わせの場所に行ってみると
すでに奏くんは来ていて。
こちらに気づかずにため息をついた。
「何?デート前にため息?失礼じゃない?」
そう笑って声をかけると少し慌てて。
「あ。ごめん。いや。どうなるか心配で」
ともう1度軽いため息をついた。
「何?どうなるかって」
「いや。あの」
「なぁに?」
私が意地悪く聞けば
観念したように「デートが初めてだから。とりあえず人に聞いた」と
白状した。
私は可笑しくなって
でも吹き出さないように、「で?なんだって?」と
問い詰めれば
「とりあえず、年上のお姉さんだから下手に俺の知識より
相手に聞いたらどうかって話にまとまった」
そこで私は我慢が出来ずにプッと吹き出した。
「女に初デートのプランを考えさせるなんて聞いたことない」
「うん。そうだよな」
申し訳なさそうに頭をかいて
「ごめん」と素直に謝った。
5月の風は爽やかで。
良い車でのドライブとか
お金をかけたデートなんて
とってもつまらないものに思えてきて。
「いいよ。ゆっくり歩こうか」
と、手をつないで歩きだした。