橙-6
「ありがとうございます。でもこんな恰好ですし」
奏くんの知り合いだろうと、それはあまりにも
ずうずうしいだろうと、慌てて断れば
「いいえ。是非。奏とは昔からの知り合いなんですよ。
奏の実家と俺の家がとなりなんです。
奏が連れてきたお嬢さんを食事もさせないで帰せない。
どうぞ。1番前の席を用意しますよ」
オーナーのその言葉に
「店は暗くなるから。恰好は平気だよ」
と奏くんが促した。
店内が暗くなって開店する。
予約していただろうお客さんが来店して
お店の営業が回り始める。
少しして奏くんの演奏が始まった。
真っ黒のスーツに着替えた奏くんは
この店内でのイメージと
そのピアノを制圧する雰囲気でとてもハタチには見えない。
少しして、オーナーが
私のテーブル席に座った。
「今日はお会いできてよかった」
オーナーの視線は私ではなく奏くんに向いていた。
「ここ2回ばかり、お店に来ていただいてますね?」
何・・・?調査?
少し、怪訝な顔をすれば
「あ。気分を悪くしたなら失礼。
奏の演奏が2回ほどとても良かった、と常連から聞いていたもので」
良かった?
「ボーイに確かめたらその2回ともあなたが来ていた」
「・・・・」
「どうやら奏の演奏は、あなたで変わるようです―――」