橙-5
そう言うと奏くんは少し考えてから
「じゃぁ、これなら分かるよね」と
クスクス笑ってキラキラ星を弾きはじめた。
まるで幼稚園の先生のように身体を軽くゆすって
歌いながら弾く。
そんな奏くんの様子におかしくなって私も笑う。
楽しそうに一緒に歌う私を見て満足そうに笑った後
急に曲調が変わった。
あぁ。そう言えばキラキラ星ってきちんとしたクラシックなんだよね。
思い出した。
その部分をピアノが弾けない私から見たら
まさに妙技と言える指の動きで弾いたかと思うと
急に芝居がかってゆっくりと弾きだしたり
ジャズ風にアレンジして弾いたりと、ずっと私を笑わせてくれた。
2人で楽しく過ごした時間はピアノの音にかき消され
誰かがお店に入ってきたのに気がつかなかった。
「奏?」
その人は、ほんの少し眉をあげた。
奏くんはその人をお店のオーナーだと紹介してくれた。
「奏、そろそろ開店の準備だ。着替えたほうが良い。
それから。お嬢さんは是非、食事をして行ってください」