【僕はカブトムシ】-1
僕はカブトムシ
メスは売れないよ。
ボクのおうちは日当たり大良好・朝昼晩の3食付きさ。自慢は綺麗なエメラルドグリーンの屋根。
好きな時に起きて、好きな時に寝る。
最近のマイブームは一人じゃんけんさ。
言っておくけど、友達がいないわけじゃないよ。
友達はたくさんいる…いや、いた。
でもみんないつの間にかいなくなっちゃったんだよね。エメラルドグリーンの屋根がガタガタっと動いたら、なぜか…。
ボクらはみんな同じ山で育ったんだ。
「聞いてくれ!!オレはな、世界ガチンコ角勝負に出場して角大将になってやるんだ!」って目を輝かせて話す、カブ助。
「あのさぁ、オイラのとーちゃんがさぁ、蜜集めの会社継げって言うんだよなぁ。オイラはパイロットになりたいのになぁ。」とため息をつく、カブ郎。
「ぼ、ぼく、来週、と、隣山の美しい川を、川へ、ピクニックへ、い、行くんだ。楽しみだなぁ〜。」とそわそわ落ち着きのないカブ吉。
「ねぇ、カブ太さん。今度の満月の日、山で一番高い木の上で待ってるわ。必ず来てね。」笑顔でボクをみつめるカブ美ちゃん。
あ、カブ美ちゃんは…その…ボクのガールフレンドなんだ。えへへ。可愛いんだぜ。
そしてボクらは木にとまっていろんな話しをした。
突然目のまえが真っ暗になった。
それが1週間くらい前。目が覚めたらここにいたんだ。
寝てたんじゃないよ。ボクとしたことが、どうやら頭を打って気絶してたらしいんだ。
薄れる意識の中、ひとつだけ覚えてるのは
「めすはうれないよ」
っていう聞いたこともない声。うーん、この声の主は山のやつじゃないな。どこのどいつだ。
でも…うれないって…なんのことだろう?
カブ助はここに来て半日くらいでいなくなった。
カブ太は2、3日してからだったかな。
カブ郎はカブ太がいなくなってすぐだった。
だけど。
カブ美は最初からいなかったよ。
ボクたちは一緒にいたはずなのに。
もうすぐ次の満月の日だ。もしかしたらカブ美は一足先にそこで待ってるのかもしれない。
いたずら好きな子だから隠れて驚かそうとしているのかも。
エメラルドグリーンの屋根はボクたちの力じゃ動かなかったけど、きっと満月の日になったら動く気がするんだ、きっとね。
だって、ボクはカブ美に会いに行かなきゃいけないんだもの。約束破ったらあの可愛い顔がくしゃってなって、笑顔じゃなくなって、目から涙が溢れて…。ボクはその顔いやなんだ。
あーあ、早くカブ美に会いたいなぁ。