恋雨-1
雨は降る。
私はすぶ濡れで、傘は持っていない。
どうせこれだけ体の芯まで濡れてしまったなら、今更だ。
もしかしたら、私はもう傘の差し方を忘れてしまったのかもしれない。
奥底まで届く程のこの雨は、こんなにも私の心を震わせているというのに。
人の上に雨は降る。絶え間なく降り続ける。
それぞれの雨に対する想いは違うのだろう。
雨に濡れるのが嫌だと、傘を差す人。
雨に濡れるのが怖いと、降り出す前から傘を差している人。自分から傘を閉じて雨に濡れる人や、自ら雨の中に飛び込んでいく人。
いろいろな人がいるだろう。
そしてみんなが、いくら傘を差していても何時の間にかずぶ濡れになり、溺れていく。
それを楽しいと感じる人の上では、雨はとても優しい音と温度で、まるで包み込む様に降り注ぐのだろう。
逆に、それが怖いと云う人もいる。
激しく、体を貫く様に打ちつける冷たい雨に溺れてしまえば、自分が自分でなくなってしまう気がするのだろう。
今の私の頭上で降る雨は、いくら抵抗しても、嘲笑うかの様に私の心を蝕んでいく。
静寂の真ん中で、シトシトと、ゆっくりと、だけど確実に降り注ぐ霧雨が、私の体温を奪って浸食してくる。
雨は止まない。
それは、恋の雨。
人々の上で降り続ける。
願わくばいつの日か、優しい温度で優しい音で、綺麗な雨が降り注ぎますよう。