アパートの鍵、貸します-5
厚いカーテン越しに、流の声が聞こえた。
(どうする……?)
智哉の心臓がばくばくと音を立てた。最悪、息を殺し、気配を消したままここに留まるのも
ありだとは思うが、ばれずに出ていけるならそれに越したことはない。
(とりあえず、状況を……)
悪いとは思いつつも、智哉は注意深い動きで仕切りの向こうをそっと窺った。
(なっ!!)
いきなり飛び込んできた衝撃の光景に、さほど大きくもない智哉の目が愕然と開く。
「へー、いい部屋だね」
流の後ろでのんきにそんなことを言っている女は――白藤麻里であった。
(まっ……麻里ちゃん……何で、あいつと……)
智哉はただ呆然とその場に立ち尽くして、瞬き一つせずに麻里を見つめる。
ルール違反だ。離れろ。目を閉じて、耳をふさげ。とにかく、他人の時間を勝手に覗くのを
やめるんだ、今すぐに。
そんな考えが次々浮かんでくるが、それらの命令は一つとして実行されることのないまま、
どこへともなく霧消してしまった。
「へへー、でしょでしょ。友達に聞いてやっと見つけたんだぜ、ここ。麻里ちゃん、人生初の
エッチにラブホはやだって言うしさー。かといって二人とも実家だから家でもヤれないし」
「!」
得意気に語る流の言葉に、智哉はいきなり頭を殴られたような衝撃を受けた。
今の話だと、麻里はまだ処女ということになる。
そして、今日これからこの部屋で行われる行為が――初体験。
「じゃ、あんま時間もないしさ、さっそく始めようぜー、麻里ちゃん」
「え? で、でもシャワーとか……」
流の言葉に、麻里は戸惑うような表情を浮かべた。
「あー、いいよいいよ、そんなの。できるだけナマの麻里ちゃんを感じたいんだ、俺」
「え、えぇ?」
「ささ、まずは服脱ごーよ。俺も脱ぐからさ。あ、パンツだけは残しといてね」
「う、うん……」
まだ何となく釈然としない様子の麻里だが、それでも流の言葉を受け入れ、柔らかな色彩の
ワンピースをゆっくり脱ぐと、淡い黄色のブラをそっと外した。
(う、うお……)
完全に出歯亀状態となった智哉の両目が、柔らかな膨らみに釘づけとなる。
麻里の裸体は、とてつもなく美しかった。