アパートの鍵、貸します-11
流の言葉は傍から聞けばすぐ嘘と分かる軽々なものだったが、それでも麻里は押し切られる
ように小さく頷き、同意した。
「おし、きーまりー。学内のアイドル麻里ちゃん、ついにゲットだぜい。しゃあっ!」
「……」
拳を固め、派手なガッツポーズを作る流をちらりと見やって、麻里は頬を赤らめた。それは
事後の興奮がまだ冷めないのか、それとも何か別の感情がよぎったか。
「あ、やっべ。そろそろ時間だ。大学戻ろ。次の講義、サボれねーし」
枕元に置かれたスマホを見た流が、慌ててベッドから飛び降りる。
「う、うん。あたしも、ゼミ……」
麻里も生まれたての子鹿のようにおぼつかない動きで立ち上がった。しなやかに伸びた脚が
二歩、三歩と動くと、張りのある尻がそれに合わせてぷるぷると揺れる。
ほどなく、退室の準備が整うと。
「麻里ちゃん、忘れ物ないねー。余計なもん残すとめんどーだよー」
「うん、大丈夫。でも本当にここ、誰の部屋なの? 流くんの友達?」
「あー、うん……ま、今は秘密。そのうち分かると思うよー」
玄関のドアが開いて、かちゃんと小さな音を立てながら閉まった。
全ての、事が済んで。
「……」
流と麻里の残した淫靡な臭気が漂う部屋では、智哉がカーテンを開けることさえも出来ずに
ただ呆然とへたり込んでいた。
「へー、そんなのいたんだ。どんな奴?」
「ゼミが一緒でよく話すの。音楽や映画の趣味が合って、おすすめにもハズレがなくて……」
真っ白になった頭の奥で、流と麻里の会話が何度も何度もリピートされる。
(麻里ちゃん……)
自分にだって、可能性はあった。
どこかで、ほんの少し勇気を出していれば。
もしかしたら、両想いになれたかもしれなかった。
――なのに。
「んっ、あぁっ! だ、出して! 中に出して! 今日は安全だから! 大丈夫だからぁ!」