ついに-2
「終わったよ……」
身を起こした竿田に言われ、事が済んだと理解した千亜希は、そのまま寝ているのが気まずくなり、そそくさとベッドから降りました。万里が慌てて言います。
「ああ……、拭かなきゃ、アソコ……」
従姉妹からティッシュを受け取り、千亜希は竿田に背を向けて股間の汚れを拭いました。
生娘から脱皮した12歳の手にしたティッシュがチラリと竿田に見えましたが、それには破瓜(はか)の証(あかし)の色がありました。先ほど外したコンドームにも同じ色が付いていました。千亜希は確かに処女だったようです。しかし、性の初陣にもかかわらず、彼女が垣間見せた微かな悦びを男は思い返し、
『身体の発達も早いようだが、性反応も早熟かもしれないな……』
わずかに目を丸くするのでした……。
春休みが終わり、実家に帰った千亜希は、小学校六年生として学校に通うようになりました。
最高学年ともなれば、クラスメートの男子は幾分、貫禄が出てきましたが、破瓜を済ませ、大人の仲間入りをした千亜希から見れば、青臭い少年たちに過ぎませんでした。
逆に、妙に大人びた千亜希を、彼らはなんだかまぶしいような目で見るのでした。同級生の女子たちも、
「背、少し伸びた?」
「おっぱい、また大きくなったんじゃないの?」
と、千亜希をネタにして、キャイキャイ騒ぐのでした。
そうしているうちにゴールデンウィークになり、千亜希はまた、従姉妹の家へ遊びに行きました。
ところが、万里は今朝から急に調子が悪くなり、どうも季節外れのインフルエンザにかかったかもしれない、と彼女の母親が言いました。
「ゴメンねぇ、万里が相手できなくて……。でも、一晩泊まっていくでしょ? せっかく来たんだから」
万里の部屋だと病気がうつるかもしれないので、夜は他の部屋で寝ることになったのですが、今はまだ午後2時前です。従姉妹と少し話しをしてから、「ちょっと近くのショッピングモールに行ってきます」と外出した千亜希でした。
少し歩くと、竿田の家の前に差し掛かりました。
ふと、千亜希の足が止まります。自分の大事な処女をあげた男の住む家でした。今でもあの時のことはしっかりと覚えています。竿田のコロンの香り、体温、そして、身体の重み……。
「千亜希ちゃん」
竿田の声も覚えていました。
「千亜希ちゃんじゃないか」
その声が、実際にしました。見ると、竿田が玄関先で手を挙げています。おじぎしながら千亜希が近寄ると、彼は「ひさしぶり」と言いながら六年生女子の背中に手を軽く当て、
「ちょっと入っていかない?」
気さくに招き入れようとします。そして、今さら気づいたように「万里ちゃんは?」と聞きました。
千亜希が病気のことを告げると、竿田は「季節外れのインフルエンザかあ……。大変だね」と、それほど大変そうでもない声で言いました。
玄関先で、ちょっとためらったものの、結局入ることになった千亜希は、以前のように良い香りの紅茶でもてなされ、お菓子も出されて、学校のことなどを聞かれました。
会話を重ねる間、千亜希は、竿田の声、ちょっとした仕草に気を取られていました。が、目力の強い彼と目を合わせることはできず、顔は伏せ気味でした。
その顔が、竿田の次の言葉で、ハッと上がりました。
「ところで、この前は痛い思いをさせて悪かったね」
千亜希は顔を横にぶんぶん振りました。奪われた処女ではなく、捧げた処女だと思っていたからです。
「きみさえよければ、今日、あの時の埋め合わせをしたいんだけど……」
千亜希がきょとんとしていると、
「もう一度セックスをしよう。……今日はそれほど痛くないはずだよ。……気持ちよさを教えてあげる」
千亜希の顔が真っ赤になりました。性愛の勧誘への驚きがほとんどでしたが、この家の敷居をまたいだ瞬間から心に芽生えた「竿田ともう一度身体を重ねたい」という彼女の願いを見透かされたような気がしたからです。
「嫌かい?」
聞かれても赤面を伏せたまま千亜希は返事をしませんでした。
「……じゃあ、せめて、キスさせてくれない? 千亜希ちゃん、この前よりもなんだか大人びて、魅力的だからさあ……」
千亜希が、一瞬、竿田を見ました。そして、もじもじしながら言いました。
「……キ、キスだけなら…………」
「……ありがとう」
竿田がゆっくりと近づきました。そして、千亜希の腰掛けるソファーに並んで座りました。