痛みと悦び-5
ジルはソファーの前にテーブル代わりに置いてある木箱に座ると、ココアを一口飲む。
「ジルさんも、甘いの好きなんですね」
ちょっとイメージと違う、とリョウツゥが笑うとジルは目だけあげて答えた。
「好き、だぜ?悪いかよ」
照れたように答えて横を向く。
ジル的に好き、はリョウツゥに向けて言ったので必要以上に恥ずかしくなって尻尾が落ち着きなくグネグネ動いた。
「悪くないです。次からはお菓子も差し入れます」
「おぅ」
横を向いたまま答えて目だけでリョウツゥを見る。
両手でカップを包み、少し口角を上げてココアを飲む姿は何とも言えず可愛い。
「で?何かあったんだろ?」
改めて聞くとリョウツゥはまたもやボンッと爆発してしゅうぅと湯気を出した。
「なん何だよ?!」
意味が分からない、とジルが焦れるとリョウツゥは気付けのようにココアを一気飲みする。
「あ、あの、今日は、お怪我……は?」
それを聞いたジルはまたそれか、とため息をついてココアを飲んだ。
「だから、大したことねぇって」
「あるには、あるんです……ね?」
「………」
ジルは答えずに尻尾をソワソワ揺らす。
「脱いで下さい」
「はあ?」
「薬、塗ります。脱いで下さい」
強気な物言いに変わったリョウツゥに、今回はジルも引き下がらなかった。
「オレが怪我しててもお前には関係ねぇだろ?何で気にすんだよ」
多少の付き合いはあるが心配される程ではない。
「わ、私、ジルさんが怪我して、痛いの……嫌です」
「何で?」
「ジルさん、は、その……特別なんです」
リョウツゥの答えにジルは目を見開いた。
「か、勘違い、しないで下さい!その、好、き、とかじゃなくて……」
今度はがっくり肩を落とす。
(まあ、そうだよな)
異民同士の恋愛はなにも産まれない。
だから恋愛、結婚するなら同民が当たり前。
それでも異民カップルは居るが、同民からはつま弾きにされるし文化の違いに苦労する事も多いらしい。
だから、素直なリョウツゥが銀の民のジルに恋愛感情を持つ筈が無いのだ。
つまり、リョウツゥは過度に優しいだけなのだ。
「薬、塗らせて下さい。お願いします」
自分が嫌なだけでジルにとっては迷惑だろうけど、とリョウツゥは懇願する。