拉致-2
随分と長い時間走り続けた車は、大きな街のとある病院の敷地へと滑り込んで行く。
真新しい大きな病棟を通り過ぎ、疫病が流行った時にだけ使われる隔離病棟も通り過ぎ、敷地の外れの小さな古い建物の前に停まった。
もっとも、娘は後ろ手に手錠を掛けられ、目隠しもされていたのでどこに連れて来られたのかもわからない、ただただ恐怖に脅えていただけだったのだが・・・。
目隠しを取られたのは家の中に入ってから、目の前には車で娘を連れてきた役人、と言っても娘には誰だか判らなかったのだが・・・それともう一人、仕立ての良いスーツに身を包んだいかにも金持ち然とした初老の男、物腰は穏やかだが目つきは鋭い。
「いかがですかな?」
「うむ、中々良い、私の希望にぴったりだよ、ご苦労だったな」
分厚い封筒が手渡された。
中味はもちろん金、しかし、札は見たことがあっても束になった金など見たことがない娘にはそれがなんだかわからない、自分が売られた事すらわからなかったのだ。
「では、私はこれで」
ポケットを膨らませた役人が出て行くと、男は手錠を外した。
「風呂の用意ができている、入ってきなさい」
「はい・・・でも、あの・・・ここはどこなんでしょうか?」
「お前が知る必要はない、が、今日からここがお前の家だとだけ教えておこう」
「ここが?私の家?・・・」
古びているし、さして広くもないが、今まで暮らしてきた小屋とは比べ物にならないほど立派・・・しかし、そこには暖かく包んでくれる父母も可愛い弟もいない・・・。
「ここで私は何をすれば・・・」
「何もする必要はない、私に従っていれば良いのだ」
「何も?」
「質問はするな、風呂を使って来なさい」
やはり穏やかではあるが厳然とした調子・・・従わざるを得ない。
男はこの大きな病院の院長。
そして、この建物は先々代の医師が建てた、表向き今は使われていないことになっている診療所。
半世紀ほど前、先々代はここで診療所を始めた、それから数えて三代目、初老の男はその孫に当たる。
先々代は徳に厚い立派な医師だった、病に苦しむ人々を救うために診療所を始めたが、治療代を払えない貧しい者も分け隔てなく診療したので富には無縁、病院を建てるまでには至らなかった。
その息子で生まれながらの医師だった二代目も仁の人、金持ちも貧乏人も分け隔てなく診療したが、先代以上に優れた医術を以って診療所を隆盛させ、今は隔離病棟となっている小さな病院を建てた。
そして三代目に当るこの男も医師、彼は現在の新しく大きな病院を建てるに至った。
しかし、先々代のような徳は持ち合わせず、先代の仁も持ち合わせていない。
彼が持っているのは富への執着、貧乏人を相手にしても金は儲からない、富裕層が快適に入院できる真新しい病院にすることによって富を築いたのだ。
この古い診療所を取り壊さずに置いてあるのは、表向きは先々代の徳を忘れない為、しかし実際には当代の隠れ家になっている、先ほどの様に買い取った少女を幽閉して飼育・調教する場所に。
ここに来るには隔離病棟の脇を通らなくてはならない、気味悪がって近付く者がいないので好都合、いくつかの小さな高窓を除いて窓を鉄板で塞いであるのもあまり気持ちの良いものではない、しかしそうすることで目隠しをし、音を漏らさず、全てを秘密にできるのだ、念には念を入れて幽霊話まで流布してある、万一漏れた悲鳴を聞かれても却って人が近付かなくなるように・・・。
この医師にとってこの娘は三代目の性玩具になる、少女にしか興味を持てない医師は10歳位の少女を買い、15歳位になると手放して『次』を買う、そんな事を繰り返しているのだ。
妻はいるにはいるが、この十数年まるで触れていない。
妻は金貸しで財を成した家の娘、医師にとっては野心を達成するための足がかりとなる資金を、妻にとっては院長夫人という名誉ある地位を得るための結婚、元々少女にしか興味を持てない医師と着飾ることと美食にしか興味のない妻の間には愛情もセックスもなかった、妻にとって夫は名誉と金、上流社会の付き合いをもたらしてくれればそれで良い、だからこそ夫の秘密の趣味にも見て見ぬふりを決め込んでくれる。
娘が風呂を使っている間に医師は脱ぎ捨てられた服を古ぼけたリネン用の布袋に詰め込んでしまい、代わりに太い鞭を手にして娘を待つ。
「あの・・・私の服は・・・」
「そのまま出てきなさい」
「でも・・・」
「言うとおりにするんだ」
医師は、さほど大きくもないタオルで前だけ隠しながら出て来た娘を改めて吟味した。
娘が属する少数民族は総じて体が小さい、そこは医師が最も重視し、念を押すように県役人に伝えた条件、両親がその民族の中でも小柄であることも条件に付け加えた、小さく華奢であればあるほど好みなのだ。
漆黒の髪は細くつややかで背中までかかる長さ、医師は長い黒髪に執着を持っている、10歳でこの長さなら申し分ない。
そして細い顎に小さめの鼻と唇、切れ長の目・・・医師が示した条件に全て合致する。
あくまで白い肌が医師の好みだが、さすがにその条件に見合う娘はいなかったようだ、世間から隠されているとしても野外で働かないで済むと言うわけには行かない、娘の手足はそれなりに日に焼けている、しかし、タオルで隠しきれていない腿を見れば元々は色白であることを察することが出来る。
そして山菜取りと家事が主で、農作業をさせられていなかった娘の手足は細くしなやか、華奢な腰つきも好ましい。