第一話-11
求められるまま彼女の中に放った後、孝顕は惚けて動けなくなっている女教師を己の腰から強引に剥がした。自分の横へ力なく座り込む彼女を無視して、無言で立ち上がる。
「……ごめんね……」
今日、何度聞いたか分からないその言葉を再び繰り返す声を聞き流し、孝顕は身なりを手早く整えると、机の上の鞄を掴み足早に第二講義室を出ていく。
廊下に出ると軽く周囲を見回して走り出した。途中、教師に注意されたが構っていられなかった。喉元までせり上がってくるモノを押さえつけ、口を手で被ってトイレに駆け込む。洋式便器のある個室に飛び込み、蓋を開けると激しく嘔吐した。
ひとしきり吐いて胃の中身を全て出し切り、液しか上がってこなくなった頃、少年はふらつきながら個室から出てきた。幸い他に人はいない。口や襟元についてしまった飛沫を落とすため、洗い場の蛇口レバーを押し下げ水を流す。
手を洗い袖口や襟元を確認しながら視線を上げると、壁に設置された鏡に色をなくした自分の顔があった。酷く暗い眼をしている。よほど強く噛み締めていたのだろうか、下唇に血が滲んでいる。
不意に笑いたくなった。
気が付いたのだ。
「女の人は、これが初めてだな……」
口に出すと益々笑いがこみ上げ、身体が揺れた。
よりにもよって「最初」がこれか。
童貞を喪う事にさしたるこだわりも理想も無い少年だったが、最悪な形で山を越えのは確かだろう。
口元が不自然に歪む。
自分は、結局何をしたかったのだろう。何を期待していたのだろう。愚かな自分を思い切り嘲笑(わら)ってやりたい。
鏡の前で、少年は声も無く嘲笑った。
嘲笑い続けた。
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