「ご主人さまのため・・・・〜亜希の変化〜」-1
朝、自室で着替えている亜希から知らず知らずのうち鼻歌が・・・・
「〜♪〜♪」
「なにぃ?昨日とは打って変わってごきげんじゃない?」
「えへへ♪内緒!」
「ますます気になる!ねぇおしえてよ〜」
「ん〜。まぁお姉ちゃんにだけおしえてあげる!あのね・・・・」
「え?本当?お母さ〜ん!!」
昨夜、とうとう良平と心も体も結ばれたことをついつい亜由にしゃべってしまい、朝から東堂家のキッチンは大騒ぎだ。亜由の口の軽さは尋常ではない。言ったとたんに階段を駆け降り、朝食の準備をしている母のもとへ・・・
「もう!その口の軽さはどうにかならないの?」
遅れて下りて来た亜希は当然膨れっ面である。
「亜希〜よかったじゃない!良平くんならお母さん安心だわ!」
嬉しそうな母・美那子(みなこ)の横で亜希とよく似た膨れっ面をしてるのは父・友成(ともなり)だ。
「おっお父さんはまだ早いと思うんだけどなぁ・・・。亜希はまだ高2だろう?」
亜希は4人兄弟の末っ子。亜由の上にまだ兄が二人いるが自立して家を出ている。亜由ももういつ家を出てもおかしくない歳。しかし、友成にはそれが寂しくてしょうがなく、亜希だけはどこにもやりたくない!と思っている。
「もうそんなこと言わないの!良平くんと結婚すればすぐ隣の家に亜希はずっといるのよ〜?」
「けっ結婚?!??!」
口が軽くかなりお調子者姉、おっとりしていて何を考えてるかわからない天然の母、そして今にも失神しそうな異常に子離れできない父。
こんな個性的な家族の中で唯一亜希だけがまともだ。
『はぁ〜。さっさと学校行こう・・・朝からこんなんじゃ1日体力もたないよ・・・。』
「それじゃ行ってきます!」
「あっ亜希!お父さんはお前をお嫁になんかやらないからなぁ〜!!」
「小さい子のワガママじゃないんだから・・・いってらっしゃぁい!亜由、あんたも早くしないと。」
「わかってるけど、今出たら亜希がダーリンとイチャイチャするところみなくちゃいけないじゃない?」
ニタッと顔を見合わせて笑う美那子と亜由。友成はまたも失神しそうに口をパクパクさせていた。
「おっ!亜希おはよ!」
「りょうちゃん!おはよう。待っててくれてたの?」
「うん。呼び鈴ならそうとしたんだけどおじさんの声聞こえてさぁ〜」
「朝からうるさかったでしょ?もう本当に子離れしないんだよね」
「「お嬢さんを僕にください」なんて言ったら心臓止まりそうだな!」
「アハハ!そうかも〜」
教室−−−−−
今日はりょうちゃんと奈歩のおかげで、昨日よりずっといい気分でこの席に座れている。
でも問題なのは・・・・
「おはよ。亜希・・・」
『・・・・・え?』
『なっなんで?なんで早坂翔太が隣の席に座ってるの?隣は立川くんの席・・・』
「なんで・・・なんでそこに座ってるの?たっ立川くんは?」
「立川?あぁ最近視力がガクッと落ちて黒板が見えないって言うから変わってやったんだ。」
『またあの不吉な笑み・・・・』
嘘であることを亜希は悟った。立川徹郎(たつかわてつろう)は高校に入ってからずっと亜希といっしょのクラス。1年の頃は眼鏡をかけていたが2年に進級してからコンタクトレンズにしていた。もし、視力が落ちたのならコンタクトレンズの度数を上げればいいだけで、わざわざ1番前の席に行くことはない。そしてなによりこの不吉な笑み・・・・・。立川に何かしたに違いない。
「まぁ仲良くしてくれよ!・・・・俺と亜希の仲だろ?」
ガタッ
腰が抜けて自分の席の椅子にへたりこんだ。
「亜希?大丈夫か?」
「やっ!触らないで!!」
腕を掴まれ、ふりほどこうにも振りほどけない。
「早坂!何してんだよ!!」
今にも殴り掛かりそうな勢いで良平が間に入ってくる。激しく睨み合う翔太と良平・・・亜希は良平の背中にしがみつくしかなかった。
「お前昨日からなんなんだよ?邪魔すんなよ!」
「亜希は俺の彼女だ。お前が邪魔してんだよ!亜希が嫌っつってんなら俺は亜希を守る。」
「ふ〜ん。彼氏ねぇ・・・まぁ今のうちだと思うぜ?おいっ立川!席戻すぞ!」
「あっ・・おう」
すごすごと立川が元の席に戻り、翔太は1番前の席に移動する。
「約束どうり金はやるから安心しろ。」
後にこんなやり取りがあったことはきっと立川と翔太しか知らない・・・・