プロローグ-2
ウツラウツラした後、フッと意識を取り戻すと随分時間が経っているような気がした。
周りの座席もいつの間にか空きがなく、乗車した時には見なかった顔が並んでいる。
慌てて時計を見ると12:25だった。
『凄いタイミング…』声にならない呟きの後、電車は12:30過ぎに小倉に着いた。
改札をくぐると啓子と目が合い、手を振りながら小走りに近付いてくるのでつられて小走りになる。
「亜沙美さん。きゃ〜久しぶり〜!」
「ホント、電話やメールだといつもしてるのにね〜。会うのはどれくらいぶり?」
「先々週かなぁ?」
「全然久しぶりやなかね。」
「ホント。ところで髪切ったの?」
「うん。あれ?啓子さんも?」
・・・・・・
・・・・・・
いつになっても、何歳になっても仲のいい友人と会うと少女に戻ってしまう。
時間を忘れ、駅の改札なのに、そこで15分ほど、お互いの近況報告や井戸端会議をした後、発表会の開演1:00に間に合わせるために急いでホールに向かった。
ホールは平日なのに発表者の家族や知り合いで混雑していたが、前の方で何とか2席確保して、座るとすぐに発表会が始まった。
10組ほどの発表が終わり、いよいよ礼子のチームの発表になった。
「礼子さ〜ん!」手を振りながら啓子と声を掛けるとステージ上の礼子もこちらを見つけ手を振りかえす。
踊りが始まり、しばらく見ていると顔見知りのメンバーもその中にいた。
「あれ?佐藤さんってまだしてるんだ?」思わず、声を出すと啓子が答える。
「うん。一旦止めたけど、また戻ったそうよ。離婚して実家に戻ったんだって」
「え?本当?」
「うんうん。実はね…」
・・・・・・
・・・・・・
発表会そっちのけでひそひそ話をしていると時間があっという間に過ぎ、閉演時間の4:30になっていた。
会場を出ようとすると礼子が私たちを見つけ、声を掛けてきた。
「亜沙美さ〜ん!啓子さ〜ん!」
「あら!礼子さん。よかったわぁ。凄くよかった。」私が言うとおしゃべりに夢中でろくに見てなかった啓子も続ける。
「ホント!私が続けてたらきっと足手まといになってたからやめてよかったわぁ」
「そんなことないわよ。今からでも戻ったら?亜沙美さんもどう?」
「考えとくね。でも佐藤さん、戻ったんだぁ?」
「それがね…」途端に小声になった礼子が主婦仲間のゴシップネタを披露した。
三人で顔を突き合わすようにおしゃべりをしていると「礼子さん。そろそろ行くよ」少し年嵩の女性が声を掛ける。
振り向いて「はい」とその女性に返事した礼子は向きを戻して続ける。
「そうだ。二人ともこの後、時間はある?よかったら軽く打ち上げするけど来ない?」
「え〜。いいよ。一応私たちは途中でやめてるし、気まずいよ」
「そんなの誰も気にしてないよ。
それにOGもたくさん来るそうよ。
ステージの袖からも来てるねってみんなで話してたから打上に来ないとみんな寂しいと思うよ」
すると啓子が「どうする?亜沙美さん?行ってみる?」と私に意見を求める割には表情は”行きたい!”と言うメッセージで溢れていた。
「そうね。折角だから少しだけ顔を出しましょうか?」
それを聞いた礼子は「じゃ、早速行きましょう!」私たち二人の背中を押すように打上げ会場に連れて行った。
打上げ会場はホールに隣接した会議室で立食パーティだった。会場には発表者の家族も参加しているようで女性だけでなく、男性の姿もちらほらあり、騒々しい喧騒を漂わせていた。
適当に料理を取り、近くのテーブルに陣をとった三人はビールを少し飲むと更に饒舌になり、時を忘れ、井戸端会議を楽しんだ。
しばらくすると啓子が携帯電話を取り出し、電話の向こう側の誰かと話し始めた。
「え?本当?・・・・うん・・・わかった。・・・すぐ行く。じゃ、後で」
電話を切った啓子を冷やかし半分で「な〜に?彼氏?もう隅に置けないわねぇ」
「そんなんじゃないわよ。亜沙美さんこそ彼氏いるんじゃないの??」
「いないわよ。そんなの。啓子さんじゃあるまいし〜」
「だからそんなんじゃないってば!でもごめんね。急用が入ったからもう行かないと。続きはまた今度はなしましょうね」
こちらの返事を待たずに、啓子は急いで出て行った。
残った礼子と二人で続きのおしゃべりを楽しんだ後、懇親会の終わりを迎え、電車の方向が別の礼子とは懇親会場で分かれた。