#2-1
夜の町はにわかに騒然としていた。
警察の車両が小さな家の前に数台止まり、無音で赤い光を振りまいている。家の周囲にはトラテープが張り巡らされ、警察官は集まってきた周辺住民を近寄らせないように目を光らせていた。ベランダや窓はブルーシートで覆われ、外から見えないよう目隠しがされている。中では鑑識班が捜査に必要な物を集めているはずだ。遺体はすでに運び出され、警察と連携している病院の安置所に置かれている。
小波のような人々のざわめきが、家の周囲を、町を取り巻いていた。
同じ頃、警察署では年配の優しげな婦人警官が一人、ソファに座っている少年のそばに寄り添っていた。保護された当初に包まれていた毛布は、たたんで脇においてある。向かいの机の前には調書を取るためにもう一人若い男性警官が座っており、気遣わしげに子供を伺っていた。
ここは特別な個室などではなく、いくつも机の並んだ室内の奥をパーテーションで仕切ってあるだけの簡単な相談室だった。周囲では数人の警官が慌しく動き回っていて、音が筒抜けになっている。何処となく、学校の職員室に似た雰囲気があった。小さな町の所為なのか、堅苦しい雰囲気は無い。
少年はマグカップを両手で包み込むように持ち、湯気を上げる黄色い液体を静かに見つめている。大人のように落ち着き払った様は、ショックで感情が抜け落ちているとも思えない。聞かれたことに対してはゆっくりとだが淡々と答えていく。時折カップに口をつけ中の液体を飲みこんだ。その動作さえ淡々としていて感情を微塵も表さない。およそ年齢にそぐわない空気をまとう少年を前に、二人は逆に心配が募っていくのを感じた。