#2-3
母親の死を目撃し、その死体と共に日常生活を送る。少年はどんな気持ちで日々を送っていたのか想像も付かない。警官の目に映る少年は、正常と異常の間を当たり前に行き来しているようで、理解できない不気味さを感じていた。
死を理解できていな訳ではない。むしろ母親の死を素直に受け入れ、子供なりに冥福を祈っていた。「今まで、僕のためにたくさん働いて大変だったから、天国でゆっくりして欲しい」と、少年は幽かに笑って呟いたのだ。それは、初めて見た少年の表情だった。
歳若い警察官は、知らずため息をついた。手の中のペンをくるりと回すと尋ねる。
「ねえ、孝顕(たかあき)君。どうして、誰にも知らせなかったんだい? 110番とか、近所の大人とか、色々あったと思うんだけど……」
名前を呼ばれて、少年は机の前に座る警察官へ顔を向ける。暫く見つめた後、再び手元のカップに視線を移した。
「なんとなく……」
呟くと、少年はぬるくなり始めたコーンスープを一口すする。
それっきり黙りこくってしまった少年を見て、困り果てたように二人の警官は顔を見合わせた。
周囲の警官たちは相変わらず忙しく立ち回っている、時折何処からか電話のベルが聞こえた。
色々な音を耳にしながら、少年は今までの事を思い起こしていた。