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【箱庭の住人達 〜喪失〜】
【サイコ その他小説】

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#2-2

 驚くことに、少年は、母親が居間で首をつるのを見ていた。そして、死体を自力で降ろし、あの畳の部屋に寝かせたのである。その後、居間の床に出来た汚れを出来る限り綺麗に掃除したらしかった。
 母親は小柄で細身だったとはいえ大人、しかも死体。それを動かすのは子供には相当の重労働のはずだ。それを示すように、遺体には死後についたと思われる擦り傷等があちらこちらにあった。机の前に座っている警察官は調書を書き上げた紙面から目を上げ少年を盗み見る。
 随分と大人びて見えるが小学五年生だという。背は平均的な小学五年生よりはおそらく高いほうだと思う。もやしとまで言わないが線が細く、女の子のような顔立ちをしていた。問いかけに無駄なく答える様子には賢さが見え隠れする。
 死体をおろしたのは「そのままでは可哀相だと思ったから」で、普段、部屋の掃除などは彼の役目なのだと言っていた。汚れや洗い物は溜めておかない。出来る限り速やかに掃除するのが家の中での決まりごとなのだそうだ。床の染みは上手く綺麗には出来ず、汚れがちょっと残って困ったと言っていた。
 そうして死体を布団に寝かせた後、少年は誰にも知らせることなく日常生活に戻っていく。
 母子家庭でもあり、彼は子供ながら一通りの家事をこなすことができるという。保険証や印鑑の場所も知っていたし、銀行のカードの扱い方も知っていた。
 淡々と学校に通い、買い物をし、食事を作り……。家事をしながら、時折は友達と遊ぶこともあったようだ。親の見当たらない彼を心配して声をかける者があったが、「病気をしてここ暫く入院している」と話し、「何か手伝おうか」との言葉には大丈夫だからと断っている。「時々親戚の人に来てもらっているから」と。実際にはこの家に親戚など誰も訪ねていない。
 少年はいたって冷静で、不安定な素振りや普段と違う言動も無く、日常の生活に荒れたところも見受けられなかった。母親想いのしっかりした良い子だと思われていて、周囲の大人は少年の言葉をあっさり信じた。
 そして、母親の遺体がが腐敗して強烈な異臭を放つまで、周囲の誰一人、この異常な状況を発見できなかったのだ。


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