#1-1
北海道にある小さな町。人口は数万程度、酪農業で細々と生計を立てている個人経営が殆ど。目立った特産物や観光名所も無い、そんな小さな町で起きた一つの出来事があった。
とある夏の日──。
何の変哲も無い、ただの日常であるはずだった。
少なくとも、少年にとってそれは日常の一つだった。
ただ、いつも自分を包んでくれていた存在が、二度と笑いかけてはくれなくなったという、それだけしか違わない、ただの日常の続きだった…………。
最初に気が付いたのは、近所に住む少年の友達だと言う。いつものように、「遊ぼう」と声を上げ庭からベランダへ回ると、物凄く変な臭いがしたんだ。と、今まで嗅いだ事も無いようなおかしな臭いだったんだよ。と、子供は夕飯時、何の気なしにそんな話を母親にした。
せっかく遊びに行ったものの少年はいなかった様で、結局家の周りをうろうろして自分の家に帰ってきたのだと、つまらなそうに話したのだった。それを聞いた彼の母親は何を感じたのか、夕食後、少年の家に向かったのだ。