#1-4
と──。
そんな、静かで重苦しい空気の中、突如がたがたと音がしたかと思うと、間の抜けた声が響いた。
「おばんでーす。永井ですけどー、うちのお母さんいるかなー?」
玄関先で、永井の父親が居間に向かって声を上げていた。いつまでも戻らない妻を心配して迎に来たらしかった。
少年は声に振り向くと、「はーい」と返事をして玄関へ向かおうとする。
瞬間、彼女は声を搾り出した。
「あ、あ……っ、あなた──っ! あなたっ、来て──っ!!」
「幸江(さちえ)!?」
ただならぬ声に、永井の父親が慌てて室内に上がりこんできた。やはり、この臭気に顔をしかめている。少年を通り越し、妻の元へ駆け寄リ震える肩を抱き寄せた。そして開け放たれた襖の先を目にして凍りつく。
「……っ……きっ、……救急車……、いや……、警察……に……」
呟くと、抱き寄せた妻を引きずるようにして、壁際の電話に取りついた。
二人の様子を静かに見つめていた少年は、何かを諦めたようにそっと息をついた。
* * * * * * * *