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博士の天才
【コメディ その他小説】

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その7-3

 それから毎日のように昼休みには中庭のベンチでのささやかなデート。
 博士は彼女が用意して来てくれる弁当に舌鼓を打ち、彼女も博士が喜ぶ顔を見て微笑む。
 お互いに名前も知らないまま、気持ちは日に日に寄り添って行った。

 初めて博士の名前を聞いた時、彼女はベンチから転げ落ちんばかりに驚いた。
 自分の作る弁当を毎日嬉しそうに頬張ってくれる人が、二度もノーベル賞に推されたほどの研究成果を挙げて医療に一大革命をもたらし、傾きかけた製薬会社を今や世界有数の大企業にしてしまい、ひいては日本経済の活性化にまで貢献し、そして今なお画期的な新薬を次々と生み出し続ける頭脳の持ち主だったなどとは思いもよらなかった。
 なにしろ、同じ敷地内に勤めていてさえ博士の顔を知るものはごく限られていたので、社員にとっても博士は謎の人物、OL仲間の間でも面白可笑しい噂が飛び交っていたのだ。

 曰く、「聞いた?聞いた?頭が異常に大きくて三頭身なんだって?」
 曰く、「コーヒーとサプリメントしか口にしないから扇風機の風圧で転んじゃうんだってさ」
 曰く、「三年間一睡もしないで、次の三年眠り続けるってホント?」
 そして極めつけは。
 「ねぇねぇ・・・あの博士ってさ・・・実は地球人じゃないらしいよ・・・」

 しかし実際に触れた博士は多少変わってはいるがごく普通の男性、そしてその心はまるで子供のように純粋、博士の気持ちが本物であることには疑う余地もない・・・数週間後、彼女は博士の求婚を暖かく素直な心で柔らかく受けとめた。
 「はい・・・私で良ければ・・・」
 博士の頭脳ではなく、もちろん預金通帳の残高でもなく、ただただ純粋な博士の人柄に惹かれ、無償の愛に謙虚な気持ちで応えたのだった・・・。

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 件の温泉地で愛する妻と楽しむ露天風呂。
 博士はもう透明になる必要も、幽体離脱の必要も、性転換の必要もない、もちろん透視眼鏡も。

 今、愛する彼女のすべては彼だけのものなのだから。


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