The Change!〜少年の逆襲編〜-1
【前作を読んでいないとわからない箇所があると思われます。ご注意ください】
う゛〜〜〜……。
これは別に横に腹を空かせた猛獣がいるという意味ではない。
正真正銘、ベッドに突っ伏した俺の喉から絞りだされている音である。
俺の名前は山下望。
高校二年の、「幸田ひとみ」という彼女もいるそれなりに恵まれた男だ。
で、なんでこんな声を上げているのかというと、「頭の中をぐるぐると駆け巡っている疑問がある」というのも理由の一つだが……正直に話そう、腰が痛いのだ。
今日の昼間、もう何度目になるのだろうか、俺はひとみに抱かれていた。
ちなみに今日のテーマは「ご主人さまごっこ」だそうで、メイド服を着せられて脱がされることのないままバックから激しく犯された。
涙でぐちゃぐちゃになりながら主人を求め、よがり狂うメイドは相当そそるものだったらしく、一回や二回ヤったくらいじゃ満足してくれなかったのだ。
男に戻ったからと言って痛みが消えるわけではない。
まぁ、何だかんだ言いつつ徹底的な拒絶をしなかった俺も俺なのだが。
ひとみに抱かれるのも、
暖かいし、自分より大きな体にすっぽり包まれると意外と安心するし、何より男の時とは比べものにならない強い快感があるから決して嫌いではない。
だが、頭のどこかで納得がいかないのだ。
「果たして俺は、このまま受けで良いのだろうか?」
と。
確かに気持ちいい。
気持ちいいことは良いんだが、ずっとマグロでいるという今の状況そのものが俺の男としてのプライドにどうしても引っ掛かるのだ。
しかし、あそこまでの快楽を味わってしまうと、もう男の体での快楽など取るに足らないモノのように思えて仕方ない。
斯くして、悶々とした思いの中で俺はベッドに横たわっていた。
家までは根性で帰ってきたが、まともに動かせない体で食卓を囲むのは気が引けたので、腹は鳴りっぱなしである。
我が身の切なさに思わずホロリとしそうになった。
コンコン。
「うぁ、はい、って……痛えー!!」
ガチャリ。
「一人で何やってんだよ」
「に、兄ちゃん……」
ノックに驚いて体を起こそうとし、腰を押さえて悲鳴をあげた俺をあきれ顔で見下ろしてくるのは、トレーを持った我が兄の姿だった。
「お袋が心配してたぞ。『これだけでも食べなさい』だと」
そう言われ、サイドテーブルに置かれたのは、すりおろしりんごにお粥、バナナとめちゃくちゃ消化によさそうな病人食だった。
だが、今はそれを運んできた通常非道な兄ですら天使に見える。
寝っ転がったままトレーを引き寄せガツガツと食らい付いた。
「そんなに食欲あるんじゃ……大方、ひとみちゃんを抱いたは良いものの体力が足りなくて先にダウンした、ってとこだろ」
「ぶほっ!」
一理あるだけに否定できない。
むせて咳き込んだ俺を兄はじーっと見つめて、否定する動きがないのを見ると、「ハァ」と大きな息をついた。
「はぁあ〜我が弟ながらなっさけねーなー。仮にも男が女に体力でリードとられてんじゃねーよ」
「う…るさいな!俺だってあんな体でセックスに持ち込まれなかったらもう少しまともに……!」
はっ。
売り言葉に買い言葉。
つい考え無しに吐いた言葉は目の前の人物の興味をそそるには十分すぎるものだった。
少し青くなった俺の目の前で、口端がニマーッと音がしそうなくらいに釣り上がっていく。
「の・ぞ・む・く〜ん?『あんな体』って一体何かなぁ〜?おにぃちゃん、知ーりたーいなぁ〜?」
「いや、そんな大したことじゃ「大したことじゃないなら話せるのも道理だよなー?」
こうなった兄を止められるものなどいないことは、年齢の数だけ兄弟やってる俺が誰よりも知っている。
本当に、悪魔とは天使の笑顔を浮かべるものだとどこぞやかの歌を頭にリフレインさせて……ものの数分のうちに俺は全てをゲロったのであった。