勘弁してよ-5
「里枝、俺はお前が化粧しようがしまいが変わらず愛し……」
「だからね、これ見つけてみたの!」
精一杯の愛の言葉を遮る、明るい声。
里枝の手には、先ほどテーブルの上に置いたクリアファイルがあった。
いいとこだったのに、出鼻を挫かれると、自然と口もとんがってくる。
「だから、何なんだよそれは!」
イライラしている俺に気付かない里枝は、弓のように目を細め、何か企んでいるような怪しい笑みを浮かべた。
「……自主制作AV会社なんだって」
「……は?」
「まあ、平たく言えば私達のエッチを撮影してくれる会社なんだって。ハメ撮りって思ったより難しいから、第三者がカメラワークとか色々仕切ってくれて本物のAVみたいなの作ってくれるらしいんだ」
そう言って、印刷した紙をペラペラめくって俺にプレゼンする里枝。
つーか。
「んなもんできるか!」
こいつはアホか!
「ええ、どうして? AV制作って言ってもあくまで個人で楽しむ用の動画を撮ってくれるんだよ? もちろんデータは客に全て返すし、不安なら自分のハンディカムを持ち込んでもOKなんだって」
まるで旅行の計画を立てるみたいに、彼女はウキウキしながら印刷した紙を眺めてる。
本気で言ってんのか、コイツは?
「なあ、あくまで個人でって言っても、知らない奴等の前でヤるわけだろう? そんな勇気あるの?」
正直、AV男優って仕事を羨ましく思ったことはある。
たくさんの可愛い女の子とセックスできるし、アブノーマルなことだって遠慮なくできるなんて浅はかなことを思ってた。
でも、それは表面的なメリットに過ぎなくて、実際は何人ものスタッフの前で、萎えることなく、長時間セックスをしなければならないという、辛い仕事。
可愛い女の子とはセックスしたいけど、人前でヤるのは無理だ。
そうなると、必然的に里枝の提案には首を横に振るしかない。