勘弁してよ-3
「あ、無理。昨夜の映像は消したから」
あまりにサラリと言ってのける里枝。
……何ですと?
何度瞬きをしても、穴が開くくらい里枝を見ても、彼女は動揺一つせずに、まるで「ゴミ出しといたから」って言ったみたいな平然な顔。
気付けば俺は、里枝の細い肩を掴んで、
「ちょ、何で消すんだよ!」
と、詰め寄っていた。
嫁とのハメ撮りなんて、残しておくもんじゃないってわかってる。
今でこそ瑠璃はまだ何も知らない子供だけど、いつかそういうことを理解する年になって、何かの拍子でそれが見つかってしまった場合、家族が壊れる可能性だってある。
だからハメ撮りは、その場でちょっと楽しむ程度のものだって理解してたけど……。
せめて、一度くらいはどんな風に映ってるか見たかったのに!
そんな悲痛な想いが、掴んだ肩に込められていたのか、里枝が眉をしかめていた。
「い、痛いよ輝くん……」
「何で勝手に消すんだよ、俺、まだ観てなかったのに!」
必死な様子に引きつつ、里枝はどうどうと宥めるけれど、俺のやり場のない気持ちはどうにも止められない。
こうなったら、昨夜以上にエロいことして撮ってやる。
鼻息荒く里枝に飛び掛かったが、彼女は持ち前の運動神経でそれを軽くかわした。
顔面がソファーの背もたれにボスッと埋もれる。
そんな俺を尻目に、里枝はリビングの隅にある小さなチェストの引き出しから、何やらクリアファイルを取り出した。
鼻をさする俺に黙ってクリアファイルを寄越す里枝。
その表情は、少し顔を赤らめた、花も恥じらう女のそれ。
そんな彼女を訝しく思いながらも、俺はクリアファイルを受け取った。
「ええと、何々……。『あなたの一番美しい姿を形に! 株式会社コスタ・デル・ソル』……?」
コピー用紙に印刷されたそれには、下着姿の色っぽい美女の、誘うような表情が映し出されていた。