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I Just Call to Say I Love You
【初恋 恋愛小説】

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I Just Call to Say I love You-1

 中学時代を過した母校の前を通りがかった時、彼女は傘を傾けて懐かしい校舎を見上げた。
 彼女はこの中学校で一学年上の彼と出会った。

 初めての文化祭での吹奏楽部の演奏、先輩達に混じってクラスメートも自在に楽器を操って颯爽と演奏している、その姿に憧れ、思い切って音楽室のドアを叩いた。
 しかし半年遅れの入部、楽器にもほとんど触れたことがなかった彼女は練習について行けるはずもなくおろおろするばかり、そんな時、救いの手を差し伸べてくれたのが一年先輩の彼だった。
 

 練習を終えて部員が帰った後の音楽室、彼は丁寧に、そして時に厳しくアルトサックスを教えてくれ、彼女も必死に練習した。

 そしてその年の合同クリスマスコンサート、何とか自分のパートを間違えずにこなせてほっとしている彼女は、後ろから不意にポンと肩を叩かれた。

 「出来たじゃないか、よく頑張ったね」

 その瞬間、彼女は彼からもう一つ、大切なものを教わった。
 人を愛する気持ち・・・たとえそれを告白する勇気すらなくとも。



 彼が進んだ高校は彼女には高嶺の花だったが、必死に勉強してなんとか合否すれすれレベルまでこぎつけた。

 そして合格発表の日、吹奏楽部の練習中だった彼は、掲示板をまともに見られずに俯いている彼女を見つけ、代わりに番号を探してくれた。

 「おめでとう」

 それを聞いて、その場にしゃがみ込んで泣き出した彼女。
 「どうしたの?・・・泣くことはないじゃないか・・・」
 「だって・・・私・・・」
 涙の理由を知った瞬間から、彼にとっても彼女は特別な存在になった。

 毎日一緒に通学した、肩を並べて練習しコンクールにも出た、休日には映画やコンサート、スケートやボーリング、そしてファミレスやハンバーガーショップでの語らい・・・。

 そしてその年のクリスマス、夕暮れ時の公園で、彼女が手編みのマフラーを差し出すと、それを首に巻いた彼はオルゴールの小箱を差し出した。

 そしてそのオルゴールが中一の時に彼に教わった曲を奏で始め、彼がオルゴールの小箱に入っていたペンダントを優しく首にかけてくれた時、彼女は彼の胸に顔を埋め、二人は初めてのキスを交わした。
 オルゴールが奏でる思い出のメロディに包まれながら・・・。



 夢のような二年間が過ぎ、彼は一足先に大学へ・・・やはり彼女にとっては高嶺の花の大学。

 高校三年生の一年間、彼女は彼の後を追う為に必死で勉強に励んだ、予備校通いで帰りが遅くなる日は彼が駅まで迎えに来てくれた・・・駅から家までの短いデート、でも彼女にとっては何よりの励ましだった。

 そして合格発表の日、やはり掲示板をまともに見られなかった彼女を、彼は思い切り高く抱き上げて祝福してくれた・・・。


  
 しかし、また戻ってくるはずだった幸せな日々はシャボン玉のように消えてしまった。
 ほどなく彼は唐突に彼女の元を去ってしまったのだ・・・。
 それから一月・・・もう涙も涸れ果てた。
  
 「もう会えなくってもずっと愛してる・・・それだけ言いたくてまた来ちゃった・・・」
 今も肌身離さず着けているペンダントにそっと触れながら彼女は呟く。


 道端のガードレール。


 彼女は携えて来た花束を供え、オルゴールの蓋を開けた。

 「I Just Call To Say I Love You」

 彼との思い出が詰ったメロディが頬を優しく撫で、彼女の気持ちを一つ一つの音符に乗せて彼の元へと運ぶように空へと昇って行く。


 彼女の頬が濡れていたのは、雨に濡れた音符の悪戯・・・。


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