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笛の音
【父娘相姦 官能小説】

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笛の音 2.-12

「お姉ちゃんがそんなこと言ってあげちゃ、カワイソウじゃん」
 だが、そうですね、と言う途中で頬肉が震えそうになったから、明彦の逆へ顔を反らした。ジュエリーショップが目に入る。
「……寄る?」
「いえ、どうせ手が出ません」
 銀座で本店を見かけたことはあったが、外からショーケースを見ただけで気持ちが折られるくらい、生半可ではない値段が予想された。しかし明彦は、いいじゃん、見るのはタダ、と言って有紗を導いていく。
「……ちょ、なんか、スゴいんですけど」
 入口からして違う。スーツ姿の明彦はいいが、レストラン用にシフォンブラウスにフレアスカートを合わせてきたものの、荘厳な入口と比べるとまだラフさを感じずにはいられなかった。たじろいでいる有紗の背に優しい手をかけて、いいから、と明彦が前へ進ませてくる。手袋をした店員が扉を開けて目礼で迎えると、明彦は、どうも、と片手を上げた。
「来たことあるんですか?」
 物慣れた様子を有紗が問うと、
「ううん、初めて」
 と明彦は柔和な顔つきのまま小声で言った。「俺たち客だよ? 気ぃ遣う必要ないじゃん」
 明彦の手で一つのジュエリーに対して一つのスクエアケースが配されている前へエスコートされた。早速女性店員が斜め後ろから静かに近づいてきて、さすがの慇懃さで声をかけてくる。
「ううん、ちょっと見に入っただけだから、大丈夫。ありがとう。あとで声かけるよ」
 明彦が横顔のまま平然と言うと、店員は美しい礼をして離れていった。ショーケースの中には、リングがジュエリーライトを浴びて粒の大きさを主張するように乱反射している。じっと眺めていると、意識が離脱して吸い込まれてしまいそうな美しさだった。
「……値段、わかりませんね」
 有紗が百貨店で覗くようなジュエリーショップとはわけが違って値札は掲げられてなかった。
「いくらだと思う?」
「さぁ……、見当もつかないです」
「店員さんに言ったらさ、きっと指にはめさせてもらえるよ?」
「ムリ」有紗は息を漏らして笑った。「緊張して気絶しちゃいます」
 明彦の方を向くと、彼も笑っていた。そして背と腰のちょうど間くらいに、まだ手が軽く添えられているのに気づいて背後に目線を向け、また明彦を見た。
「……バレた?」
 明彦が少し肩をすくめてみせた。表参道で同じように宝石を覗いていて味わった悪寒の感触とは全く異なるから、
「触りすぎです。……オサワリ料、取りますよ?」
 有紗は悪戯っぽい目線を向けてケースの中のリングを指さした。
「欲しいの?」
「買ってくれるんですか?」
「……気持ちを試されてるんなら、まぁ、ちょっと真剣に考えなきゃ。その前に、口座の残高確認させて?」
 あはは、と小声で笑った有紗は、笑み顔のまま髪を揺らして左右を見た。さっきの店員は富裕そうな老年夫婦の接客をしている。他の店員も、前に手を組んで壁沿いに立って離れている。
「……生理、きました。私」
 俯き加減に髪を垂らし、リングの煌めきへ散らすように呟いた。日曜日に来た。直樹の奮った愛情は有紗の体に留まらなかった。
「今? それ」
 聞こえてきた明彦の声調に変化なく、優しげだった。
「……森さん、気にしてるかな、と思って」
「気にしてた」ふう、と鼻息。「……ホッとした」
「してくれるんですね」
「そりゃ……、当然」
 有紗はもう一度目線だけで左右を確認すると、
「でも、まだ少し続いてます。……だから、今日は期待はできません」
「そっか。……あ、じゃ、辛い? こうして出歩いてるの」
「大丈夫です」
 有紗は照れた微笑みを向けて、「こうやって触られてると、痛いのも和らぐ感じ」
「よかったー……、って、そんなこと言われたら、俺が緊張しちゃうじゃん」
 笑った明彦は、丁重に有紗を転回させると出口へと導いていった。また何もしないでも扉が空き、恭しく礼をされて二人は店を出た。歩き始めても明彦の手が腰に触れられたままだ。陽が落ちて暖色のライトが周囲を照らしていた。この時間になると観光客よりも自分たちと同じように仕事終わりにやってきた人々の方が圧倒的に多い。有紗が少し見渡しただけでも、身を寄せて歩くカップルの姿が何組も目に入った。
「……ちなみに、キスくらいなら大丈夫です」
 側を過ぎるツリーシャワーを見上げて有紗が呟く。
「していいの?」
「陽が暮れたら、隣の公園、キレイなんですよね?」
「あ、……バレてた。もしや、誰かと来たことある?」
 冗談めかして笑った明彦へ、有紗は眉を顰めて非難した微笑みを見せ、
「残念ながら。……でも、普通に女の子の間で有名ですよ? ミッドタウン横の公園」
 と言って、少し意識的に声を震わせてみた。「なので、来るのちょっと憧れてました」
 有紗は一歩を使って身を傾けると、腰の明彦の手を外し、自分の手の中にそっと握った。
「やっべえ、メシ食ってる場合じゃない。何でこんな時間に予約入れちゃったんだ俺。めっちゃ後悔してる」


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