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明日一緒に川崎に行こうよ?
【学園物 恋愛小説】

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明日一緒に川崎に行こうよ?-1

 例年よりも暑い夏が過ぎ、いよいよ秋めいた頃になると気温はぐっと下がり、木々には色づく葉が多くなった。
ぱっとしない天気とまた夏が戻ってきたのかと錯覚するほどの晴れ渡った天気が日本中を困惑させる中、僕は中学で2回目のその季節をぼんやりと過ごしていた。
体育祭や文化祭も最初の年に比べたら、胸躍るような気分にはなれず、どちらかと言えばどうも同級生がむやみやたらとはしゃぐ様子を見下していた。
多分それは僕の本来の気質で例えばそれはこの微妙だと世間で言われる年齢に達した事での小さな或いは大きな心境の変化だったとは、思いたくなかった。
とにかく、無駄に過ごしているとは気づいて居ても、僕は結局何もしていなかった。

さっきまでは。

 その子はクラスでそんなに目立つタイプでも無かったが、蔑ろにされる訳でも無く、クラスの一員としての役割はきちんと果たすし、人間関係も上手くやっていた。
容姿だってはっきり言って誰もが振り向くとはお世辞でしか言えない。ただたまに笑った顔がかわいいと思うことはあった。最もそれはそういう意識を持って見た訳でなく、ただ目に映った顔がスライドの1ショットのように心に残っているだけだった。
それはきっと僕にも言える事だと思う。

つまり、僕とその子は似ているのだ。
限りなく。
だからなのかもしれない。
僕がつまらなそうにしていたのが分かってしまっていたのかもしれない。

 その時クラスでは体育祭で使う旗を製作していた。
まず体育祭委員と彼らと仲の良い数名の男女が黒板にでかでかと旗のデザインを描いた。
机は清掃時に予め教室の後ろ側に纏めてあったから、各々自分の好きな場所に立ったり座り込んだりして、その様子を見ていた。
僕もそんな一人に過ぎなかった。
確か窓際に居て見ている振りをしながら本当は校庭から聞こえてくるどこかの部活の音や声を聞いていた。

イベント自体に興味が無いのだから旗なんてどうでもよかった。

その内彼らによる説明が始まった。
これが終われば必要な枚数分好きなように分かれて旗を作るのだろう。
その時に何も知らないでは困ると、僕は、校庭の音とそれを交互に聞いていた。
やがて説明が終わると口々に会話を交わしながら床に敷かれた長方形の白い布へ分かれた。

「おーい、安藤。こっち来いよ」

男子ばかり集まっているグループが僕を呼んだ。
声を掛けたのは1年から一緒の佐野で学校で一番仲が良い友達だ。

「ん」

短く返事をして床に座り込んでいる同級生を避けて近づいた。
佐藤は陸上部に所属していて体育祭が好きというよりは体を動かせるイベントとしてそれが好きなようだった。
盛り上がるとかそういうのは二の次で自分が活躍出来る場がある事が嬉しいのだと話して居た事がある。

「お前も一緒にやろーぜ」
ほら、と、手渡されたのは誰かの筆で、美術の得意な大木が布に下書きをしていた。
皆で頭を寄せて大木の作業をじっと見守り、側では、田村と呼ばれる地味な奴がペンキのフタを開けていた。いくつかそれが開けられる頃には教室中がペンキの匂いが回り、何人かの女子が窓を全開にした。

「さっさと終わらせねーと、シンナー中毒になりそーだな」

顔を上げた大木が笑いながら言い、周りの奴も軽い笑いを向けた。
僕もそれに合わせて笑った。


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