明日一緒に川崎に行こうよ?-4
だって体育祭は明日じゃないか。
もっと僕に時間をくれても良いのに。
結局その事を言い出せないまま学校に着き、浮き足立つ校内の雰囲気にのまれたまま1日はあっという間に過ぎていった。
夜、僕は一人、部屋で座り込んで机の置くから引っ張り出した数ヶ月前に行った遠足の集合写真を見ていた。
立っている僕の目の前でしゃがんでいる西沢。
こんなに近くに居たんだね。
こんなに近くに居たのに気づかなかった。
西沢が魅力的だってことに。
僕はそのままぐだぐだ考えながら次の日のために眠りについた。
体育祭やイベントの良いところは宿題っていう悪魔が休暇を取ってくれることだ。
年に一度のイベントは事の他盛り上がった。幸い天気も雲ひとつない快晴で残す所全学年対抗のリレーをのみになった。
ここで学校全体は普段からはありえないほどの一体感を発揮する。
僕は、というと、そこまで一致団結出来るほど体育祭に集中していなかった。
各クラスに区切られた応援席。
選手と役員以外の全員が前列に押し寄る。
確か大木も出ていたはず。
だが、彼には悪いが僕はそれを見ることが出来ずに、みんなの背後にある壁にもたれかかっていた。
割れたマイクの声が響く。
「それでは、最後の種目。学年対抗リレーを始めます。選手入場」
音割れした音楽が鳴り、運動部の面々が顔をそろえた。
声援が始まり、ピストルの音が鳴り響くと、それは益々強くなった。
「ね」
みんながそれに夢中の間に西沢はそっと僕の隣にもたれかかった。
汗が滲んだ顔。
砂埃が付いた髪の毛。
同じ色のハチマキ。
その顔は切なげに僕を見つめている。
声援が大きくなった。
目の前を選手達が走り抜けて行ったんだろう。
僕の心はそれにつられるように音が大きくなる。
下を見ると、ふらふらと揺れる西沢の手。
僕はそれにそっと手を伸ばした。
きっと、僕の手は凄く汗ばんでいて気持ち悪いと思う。
手から心臓の鼓動が伝わってしまうかもしれない。
握った瞬間に西沢が大きく目を見開いた。
僕は彼女の言葉を待たずに言った。
「明日一緒に川崎に行こうよ?」
僕の精一杯の返事。
彼女は嬉しそうに大きく頷いた。
リレーは僕たちのクラスの圧勝だった。
そうして今年の体育祭の幕は下りていった。