明日一緒に川崎に行こうよ?-3
「安藤ー、いこーぜー」
大木達が呼んでいる。
胸の鼓動を隠すように側にあった机にわざと鞄を当てて慌てたように大木達の元へ急いだ。
僕の目はあれからずっと西沢を追っている。
夕飯は好物のカレーだったのに、喉を通らなかった。母さんが心配してあれやこれや言うから、思わず罵倒してダイニングを飛び出した。
2階の僕の部屋はすこしごちゃごちゃしていて、ベッドにたどり着くまでに何か踏んだけれど、そんな事気にせず、僕はベッドに沈んだ。
……だからね、好きになっちゃった。
西沢の声、言葉、あの時の顔。
頭の中でぐるぐる回っていた。
……だけどね、好きになっちゃった、僕も。
心の中で呟いて一気に恥ずかしくなった。
きっと明かりを着けたら耳まで真っ赤なのが、部屋に入ってきた誰にでも分かってしまうくらいに。
そう、僕は、西沢に好意を抱いてしまった。
あの夕方の一瞬で。
翌朝、何時も通りに目が覚めて、何時も通りに学校に行く。同じ制服を着た自分と同じ年頃の男女が同じ方向に向かう中、僕はやっぱり西沢を探していた。
辺りをわざとらしく見回すわけじゃないけれど、目玉はすごくきょろきょろと細かく動いていただろう。
「おはよう、安藤くん」
ぽん、と肩を叩かれたのは学校が視界に入った辺りだった。
体がびくっと揺れ、その声の主を振り返る。
昨日と同じ西沢がそこに立っていた。
「……お、はよう」
思わず声が上ずる。西沢は少し大人びたように笑んでから僕の横に並んだ。
「やだぁ、そんなに緊張されると、あたしも緊張しちゃう。……返事、いつでもいいから。返事聞くまでは今まで通りでいいよ。彼女面しようとも思わないし」
西沢が回りに聞こえないように少しだけ声を潜めて言った。それからゆっくり歩き始め、僕もそのペースに合わせた。
「……今までって言われても」
難しいなぁ、と、呟き、思わずため息が漏れる。こうやって一緒に登校する時点で今まで通りじゃないのだ。
「そう?別に何とでも言い訳なんて出来るじゃない。……安藤くんも馬鹿じゃないんだし」
僕の気持ちを読み取ったように西沢が言う。こんな風に話した事無かったから知らなかったけれど、西沢って案外男っぽいのかも、知れない。
「まぁ、そうだけど」
相槌を打つ僕に西沢は続けた。
「でも、これじゃああたしは蛇の生殺しみたいよね。……じゃあさ、体育祭の日に返事頂戴。その日なら話す機会あるし、振られても次の日振り替え休日だから泣き通せるし」
僕の返事を聞くより前に西沢はそれが決定としたようで、自分の案に満足しているようだった。
その反面僕は焦っていた。