明日一緒に川崎に行こうよ?-2
そんな風に旗を製作し始めて1時間が立つとだいぶグループごとに違いが出てきた。
幸い、僕が居たグループは連携が良いのか仲が良いのか、それとも個々の能力が高いのか、半分以上を塗り終え気が抜けていた。
それで暗黙の了解というか、皆、無断ですこしずつ抜けて休んでいた。
最もこの作業は強制参加でも何でもないのでクラスの中には用事があると帰っていく姿も見かけた。
それで僕も筆を置いて固まっていた体をその場で伸ばすと立ち上がり教室のドアへ向かった。
廊下は西日が窓から射し込み、埃臭かった。
夕日に光る埃をじっと見つめてからもう一度背伸びをする。
「あたし、イベント嫌いなんだ」
突然背後から声が掛かった。その子が僕の背後に立っていて、振り向いた時には僕の左まで歩いてきていた。
「安藤君の背中にも、そうだって書いてあるよ。違う?」
「背中に?変だな、夏服は無地なのに。西沢の目には文字が見えるんだ」
心が躍った。世間話に違いないのに、こんな風に自分と同じ気持ちの子がいるのがすごく嬉しかった。
「違った?違うなら、違うで良いんだけど」
西沢の顔が窓の外へ向く。やわらかい女の子の匂いがした。
「違うわけじゃないけど、見破られるとは思わなかった。どうして分かった?」
西沢は窓の外のカラスを見ているようだった。それでも僕の話は耳に入っていたようで、ポツリと、言った。
「だって、おんなじ匂いが、したもの」
「匂い?」
「うん。おんなじだと思ったの。……だからね、好きになっちゃった」
西沢の顔が赤く見えるのは、夕日のせいだけじゃなかった。きっと僕も同じくらい赤くなっていたかもしれない。
二人の間に沈黙が流れる。カラスはとっくに飛び立ってしまっていても、西沢は僕の方を見なかった。
何か返さないと、そう思って口を開いた時、背後から大木の声がした。
「おーい、安藤。いつまでサボってんだよ!」
心臓が飛び出そうなほど驚いて僕が振り向くと同時に隣に立っていた西沢は何も無かった顔をしてトイレの方へ歩いていった。
「いや、ごめん。ちょっと……」
西沢に告白されてました、なんて言えなくて、カラスを見ていたんだと嘘をついて僕はまたあの物凄く面倒くさい旗作りに戻った。
その後、西沢はいつの間にか教室に戻ってきていて女子ばかりのグループで、何も無かったように、同じように旗を作っていた。
17時の下校のチャイムと共に担任が教室にやってくきた。
「おーい、みんな、もう帰れよー」
わらわらと立ち上がるクラスメイト。西沢も友達と共に教室を出て行った。