恋愛のかたち-5
「か、要…」
うちの一言で要はぴたっと立ち止まった。
「こんな時間まで…何かあったらどーすんねん!」
「ごめん」
要の額には汗が流れていた。走って来てくれたのだろう。
「お前、いらんとこだけ聞いてんなや」
「え?」
要の話によると、あの廊下での会話には続きがあったらしい…。
《詩乃が立ち去った後》
「言うこと聞いてくれるとかウケるー」
「可愛えやろ?」
「どんな可愛いの基準なん(笑)」
「…でも、ほんま大事やねん。こんな俺に合うのは多分詩乃くらいやでな」
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「あ、いらんこと話してる内に日曜日なってしもたやんか」
時間は12時。
一年前のこの日、うちと要が結ばれた。
自分でもよくこんな男と付き合ってるなって思うけど、離れられへん。
ほんまはずっと、要の何気ない優しさに気付いてたから。こんな不器用で気ままなとこが好きなんや。
要はそっとキスをしてくれて、うちの薬指に指輪をはめてくれた。
「記念日、覚えてたんや」
「当たり前やろ。せやのにこんな走らせよって。お前だけやで、俺をこんなに走らせるんは」
要はうちの手を離さずに握っていた。ふと、付き合い始めのときを思い出した。人気のある要と付き合うのに女から嫌がらせを受けたことがあり、確かあのとき要は『俺がこいつを好きなんや』て言ってくれた。そのあと『あんなん言ったの初めてやし』と少し赤くなったんだっけ。
「……たまには言葉にしてくれな分からへんよ」
うちは涙目で少し微笑みながら言った。要は照れた顔を隠すようにうちを抱きしめて、耳元で囁いた。
「大事にすんで……俺についてくるなら…な」
たまに言ってくれるこんな言葉がたまらへんくらい嬉しい。
やっぱり相変わらず自己中心、唯我独尊な彼氏やけど、そんな彼氏がうちはやっぱり好き。
END