ナディーカ語り(2)-1
ちなみに、わたしといちばん年齢が近そうな、あのミドリとかドリーとかいう娘も一一〇センチ、そしてなんと、Oカップだそうだ‥‥。ボーイッシュというのとは少し違うけれど、真面目でおとなしそうな顔に似つかわしくない、爆乳ボディだ。
(性格は、可愛くなさそうだけれどね‥‥)
わたしは、三日前の、あの娘に会った際の印象を思い出した。でも、これも一、二度、あるいは三、四度――。
(きつめの調教でカラダのほうを屈服させれば、ひいひい泣いて、わたしに従うことでしょう‥‥)
そう、思えた。あるいは、五度、六度。足りなければ、七度。それ以上でもかまわない。
多くの事柄を並行して考え、同時進行させるのは、わたしの得意とするところだ。政治においてもそうやってきた。しかしわたしはまた、あのわがほうの調教士を早期に帰還させたことは、誤りだったかと思い始めてもいた。帰還それ自体、ではない。それは
(あいつが増長するにせよ、このジェニーも何か口実を見つけてあの男に調教させ、いまよりももっと、忠実というよりは従順にさせてから帰還させても、遅くはなかったかも‥‥)
しかし、あの男が目に余ってきていたのは事実であったし、わたしがそれに我慢できなくなってきていたのも、同様であった。ジェニーに語ったことは、わたしの本音でもあった。
(人の上に立つとは、難しいもの‥‥)
斜め前を進むジェニー。シャツなどものともせずに逆さの山をふたつ形作るその豊かなふくらみを眺めながら、わたしは彼女に聞こえぬように小さくため息をついたのだった。
事実上わがほうの味方となる都市、ファドラ、イシドラ‥‥他星のコンジャンクション放映に伴う投票設備と
武力侵攻や経済封鎖を伴わないオイオの服属。それは彼らの利益にもなるからだ。念のために、スガーニー側担当者の見学、という名目で検査させはしたが――多くのモニタやホログラムが、わがほう優勢を伝えていた。最終的には票はパーセンテージで現されるが、そこまでの各種傾向や、任意の分類による数値も、グラフ等によってわかりやすく表示することが出来ていた。
このレアンドラ、そしてケーミンフ‥‥わがスガーニーの準備が万全なのは、言うまでもない――他星以上に、特に都市部では、圧倒的にわがほう優勢と出ていた。そして、多少は落ちるが、フカリス星、トゥーロパ星でも、わがほうが優位に立っていた。若干の例外はあったが、大勢はそうだった。そして、すべての総合値、すなわち全木星圏でも、わがほうが
(悪くないわ‥‥)
わたしは、手にしたドリンクを一口飲んだ。残るは‥‥。
「――愚か者のオイオと、二、三の小衛星、ちっぽけな独立自治体の類のみ‥‥。まあ、もう少しで彼らも、目が醒めることでしょう。勝利は目前‥‥」
やはりドリンクを手に、ジェニーがわたしの意を汲むようにニヤリと笑って言った。オイオから送られるデータも確認できるようになっていた。それらのモニタ、特にオイオのモニタでは、やはりオイオに比重が寄っている。奴らが出てきた首都エウドシアは、さすがにオイオ人気が一番高い。
だが、それは逆に言えば、
(人気は、エウドシアに偏り気味、ね‥‥)
とも言える。いまは寂れていると聞くが、オイオの観光都市として知られ、その昔は
(どこも事情は似たり寄ったり、ということ‥‥)
わたしは心中でつぶやいた。あるいは、ほくそ笑んでいたかもしれない。
「勝利の後、オイオの都市に有利な経済政策を取るのも、面白いかもしれないわね‥‥。――エウドシア以外の‥‥」
もしかしたら、わたしの口元に、笑みのひとつでも浮かんでいたかもしれない。そうつぶやくと、ジェニーが耳ざとく聞き取った。
「なるほど‥‥。彼らの間に、
ジェニーのニヤリとした笑いは、わたしの心の表情でもある。こういうところは、本当に便利な
「まあまあ聞こえの悪い。あくまで経済のお話。お金の動きの話ですよ」
王位に就く者の嗜みを見せ、しかしこう付け加える。これが指導者というもの。
「ファドラ、イシドラも、よくわかってくれているようです‥‥。例の特恵関税のお話、前向きに考えてもいいかもしれませんね」
「――さすがです、ナディーカさま。わたしども凡俗には及びもつきません。あそこらの連中も(――ジェニーは、自分の故郷に対しても、そういう言い方をするのです)姫のご寛容を学ぶことでしょう‥‥。“木星圏にスガーニー星ありて”‥‥」
ジェニーが歌いだしたのは、わが国の国歌の一節だった。