かのかな 零日目-1
「はい……?」
「だーかーらー、わたし明日からお父さんのところに行くからねー♪」
学校から帰るなり、荷造りをしていたオフクロにそう言われ、俺は思わず自分の耳を疑ったね。
「オヤジんトコって……
俺も? いや、でも学校あるし……」
多分、パニックになっていたんだと思う。
自分でもなにを言っているのか良くわからない。
「はぁ? あんたは連れてくわけないでしょー? わたし1人で行くんだから♪」
「ああ、なるほど……
って、ヲイ! ちょっと待てよ! 俺はどうなるわけ!?」
「んー? どうもなんないわよ。あんたは留守番」
なるほど納得。
いや、マテ。納得してる場合じゃないぞ。
「お、お母さま? 差し支えなければ教えていただきたいのですが、僕のご飯とかはどうなるんでしょうか?」
「んー? この際だから、自炊でもすればー? そろそろ、わたしのありがたさを感
謝してもイイと思うけどねー」
とか言いながらケラケラと笑うオフクロ。
くっそ、このババア。他人事だと思って面白がりやがって!
俺が家庭科とか死ぬほど苦手なの知ってるくせに……
この際だから、超絶殺人フルコースでも食わせてやろうか?
いやいや、そんな妄想してる場合じゃないって。
「いや、自炊とかムリだし! ってゆーか、ありえないじゃん!?」
「イイんじゃないのー? たまにはさー」
「いやいやいや、俺、自分の料理で死にたくないし」
「でもさー、男も料理できないと、これからは辛いよ? ホラ、お嫁さんに逃げられ
たときとかさー」
なるほどね。
って、違うだろ!
まだ結婚すらしてないのに、なんで嫁さんに逃げられることが前提なんだよ。つーか、その前に嫁さんになってくれる人すらいないっての!
「でも、オヤジだって料理も洗濯も掃除もできないじゃんかよ!」
「あー、お父さんはイイのよ♪」
満面の笑みを浮かべながらオフクロは答える。
「ホラ、お父さんにはいつもわたしの料理とか食べてもらいたいじゃない? それに掃除も洗濯もわたしがするから♪」
をい、年甲斐もなくノロケるんじゃねーよ。
もう四十超えただろうが……
まあ、確かにオヤジを仕事しかできない、休みの日には家でゴロゴロしてるだけの粗大ゴミ的なダメ野郎にしたのは、オフクロのせいだって薄々感づいてはいたけど
さ。
あれで会社じゃ部下や上司から信頼され、成績もトップのスーパーエリート(オフクロ談)とは思えねーよなぁ……
だって、昔はどうだったか知らないけど、今じゃ休みにゴロゴロしてる姿はまるっきりトドですよ、トド。
いや、動物園でお客さんを喜ばせているだけトドのほうが偉いかもしれないな。
そんなオヤジが、どういういきさつかは知らないけど、モデルをしていたオフクロと知り合い、結婚したってんだから、ホント世の中は摩訶不思議。
しかも、結婚を申し込んだのは、当時トップモデル(これもオフクロ談)だったオフクロのほうだったんだってから、謎は深まるばかりだ。
オヤジ25歳。オフクロ20歳で結婚したらしいッス。
んで、オフクロが26歳のときに俺が産まれるまで、モデルは続けていたって話。
まあ、自分の母親にこんなこと言うのは変かもしれないけど、確かに綺麗だと思うよ。