かのかな 零日目-2
たまーにオフクロと買物行ったりすると、なんだかナンパとかされてるし、俺と姉弟に間違えられて狂喜したりしてるけどさ。
でも、だからこそオヤジとオフクロが結婚したのが、息子の俺としてはなんだか信じられなかったりするんだよね。
だって、トドですぜ、あんた……
「つーか、なんで突然オヤジのトコ行くなんてなったんだよ?」
「だって、お父さん1人だと、やっぱり心配でしょ? ちゃんと食事してるのかな、とか。風邪ひいてないかな、とか」
んで、息子は置いてけぼりですか。
まあ、オフクロのオヤジ至上主義は今に始まったわけじゃないけどさ。
ああ、そうそう。
俺のオヤジ、会社の命令で中国に行ってるんだよね。いわゆる単身赴任てやつ?
なんだか、合弁会社がどうとか言ってた気がするけど、良く覚えてない。
オヤジが中国に行って、まだ1ヵ月しか経ってないんだけど、オヤジがいなくなってからオフクロに落ち着きがなくなったのは確かだ。
こう見えても、家事全般を完璧にこなすオフクロだけど、オヤジがいなくなってからというもの、塩と砂糖は間違えるは、洗剤と片栗粉を間違えて服をダメにするは、掃除中に俺のゲームをゴミとして出そうとするは……
まあ、最後のヤツは、なんとなく悪意を感じないでもないんだが……
ともかく、ここまで酷いのかよ!?
って叫びたくなるぐらい、オヤジがいないとダメらしい。
「ホントはお父さんについて行こうと思ったんだけど、お父さんがね、あんたがいるから残りなさいって言ったの。だから、仕方なく諦めたのよー」
をい、俺は仕方なくかよッ!?
うわ、なんだか涙出そうだ。
「でもねー、やっぱりお父さんが心配だし、それに、わたしも寂しいし……」
はいはい。もう好きにしろよ。
おらぁ、なにも言わねえからよー。
「だから、お父さんと話して、行くことに決めたのよ♪」
なるほど。それで昨夜の電話はいつもより長かったわけか。
今さら納得。
「で? 俺はどうすりゃいいわけ?」
どんなに抗議しようが、ムダだということはわかりきっていた。
「なにがー?」
「なにが、じゃねーよ! さっきから言ってるじゃんよ!? メシのこととかさ!」
「あー、そのことねー。大丈夫。安心しなさい。強力な助っ人を呼んだから」
いや、オフクロの「大丈夫」はぜんぜん信用できないんですけど……
とは口が裂けても言えない。
でも、助っ人って誰だ?
「助っ人?」
「そうよー。あんたも良く知ってる人よー」
そう言ってオフクロがニヤリと笑った。
それが俺には悪魔の笑みに見えた。
「誰?」
「香奈ちゃんよー」
「はい……?」
オフクロの口から出た言葉に、俺は頭の中が一瞬、真っ白になった。
「まさか、忘れたわけじゃないでしょーね?」
「いや……忘れちゃいないけど……」
誰が忘れるか。
うを、忘れようとしていた幼い頃からの悪夢を思い出してきたぞ。
ガキの頃、ふとんの中に蛇とか入れられたり、裸に剥かれて木に逆さ吊りにされたり、バレンタインにもらったチョコ食べたら、なんだか変なモノが入っていたらしくて、全身ジンマシンだらけになって病院に救急車で運ばれたり……