笛の音 1．-23
「……」
お父さんじゃない、と言い返したかったが渦巻く掻痒に声が出せず顔を上げて睨み返すだけだった。また鼻で息をつかれて、抱いて立ち上がらされると、腰と腕に触られただけでゾクゾクとしたもどかしさが駆け巡り、脚に力が入らずに望まずも信也に体を預けるしかなかった。ほらしっかり歩け、と、引きずられるように歩かされ、遠慮無く体を弄られるが、異物の擦れる下腹の感覚が強すぎて手で払ったり身を捩らせたりすることもできなかった。
「ひっ」
腰から脇腹、そしてヒップを撫でていた手が、まだホテルのエントランスであるのに後ろからスカートの中に突っ込まれ、張形の柄を握って揺すってきた。「うああっ……」
倒れそうになって部屋を選ぶパネルに両手を付いた。
「さぁて、どの部屋にするかなぁ」
パネルを見渡しながら、片手は柄を握り上下に震わせたり、時折少しだけ引いて、ヌチュッ、と音を立てて挿し入れてくる。有紗は額までもパネルについて唇を結ぶが、喘ぎが漏れてワンピースの背中を反らした。ヒップの裾が大きく捲れているのが自分でも分かる。誰か別の客が来たら丸見えだ。
「う、動かさないで……」
前傾となったことで垂れる真っ直ぐな髪を揺らし、顔を隠して訴える有紗の背後から、
「ん？ イキそうか？ ……まだ二人っきりになってないんだからガマンだぞ？」
そう窘めたくせに、スカートに入った手はグイッと強く張形を押し込んできた。
「んんっ！ あっ……！」
頬が付くまでパネルに身を押し付ける有紗に、
「じゃ、有紗が選ぶんだ。今からお父さんとセックスする部屋をな」
奸悪な指示が聞こえてきて、有紗はとにかくここから逃れたくて、パネル写真も見ずにすぐに手が届くボタンを押した。
「……三階か。おいで有紗」
「うっ……、む……」
やっとヒップから手が抜かれ、左右にフラつきながらも歩き始めた有紗を、信也がエレベータへと導いていく。
「遅いな、エレベータ。……まだイッちゃだめだぞ？」
「だ、だれが……」
声を殺して睨みつける有紗の前で扉が開き、背中を押される。後から乗り込んできた信也が階数ボタンと閉ボタンを押して扉が閉まった瞬間、背後からその扉に強く押し付け、乱雑にスカートを捲ると、ヒップの狭間から突き出ている柄を持ち、それまで戯弄していたのとは比べ物にならないほど激しく捻じり、ピストンさせてきた。
「あぅあっ……！ いやっ！」
「ほらっ、だめだぞ、有紗っ。ん？ イクのか？ ん？」
有紗の痴態に対してだけではなく、陵辱を行う自分自身にも昂った声を上げて、信也は蜜が脚の付け根の後ろまで漏れて光っているヒップの中心へと容赦なく張形を揮った。
「ああっ!!」
庫内に絶叫を響かせて有紗は絶頂に達した。恍惚の波に飲まれている最中に三階に到着し、扉が自動で開くと廊下へ突き飛ばされた。有紗は前後不覚に足元をフラつかせて廊下へ数歩歩み出ると布敷の床に倒れこんだ。だらしなく乱れたワンピースの裾から美しい脚を晒して横臥し、ビクッ、と絶頂の余韻に腰を慄かせる。
「たった三階なのにイッてしまうなんて悪い子だ」
「う……、う……」
されたい放題だ。有紗は土足の床に頬が触れたまま、絶頂に体を痺れさせ、カーペットに爪を立てて汚れた床に涙を垂らした。
「お父さんがたっぷりイヤラしいことして、有紗を可愛がってあげるからなぁ。ほら、もう少しだ。早くおいで」
信也がルームナンバーが点滅するドアの前まで先に行って振り返る。「そんな所で寝転んでて、誰かが来たらビックリされるぞ？」
そう言われた有紗は緩慢に床に手を付いて上体を起こした。力を振り絞って脚を立てようとしたところで、またモーター音とともに体の中の張形が回り、再び有紗はヒクついてひれ伏した。顔だけ前に向けると、叔父がスマホを持った手を有紗に向けて差し伸ばしている。
「とめて……、と、とめ……」
「歩けないなら四つん這いで来るんだ」
「ううっ……」
「ほら見てみろ」信也が有紗の背後へ目線を上げる。「エレベータが動いてる。誰かこの階に来るかもしれない」
電子ベルの音が遠くに聞こえる。有紗は腕を伸ばすと膝を付いたまま床の上を這って進み始めた。顔を伏せると髪の毛先が床に擦れていた。しかし顔を上げれば、この情けない姿を叔父がどんな顔をして鑑賞しているかを見なければならない。
信也の足元に到着すると、髪を掴まれて引き上げられる。涙に歪む視界に淫妄に蕩ける信也の顔が映ると、有紗は殺意まで込めた視線で睨み返した。
「有紗」
叔父は四つん這いの有紗の前にしゃがむと、「今度から、合コンに行く時は、お父さんにちゃんと言ってから行くんだよ？ いいね？」
そう言って、脳天の髪を離し、涙の広がった頬を両手で挟んで有紗の唇にしゃぶりつくと、深く舌を挿しこんで中をかき混ぜた。吐きそうなほど悍ましいキスだった。信也は有紗の口腔を貪ったまま、身を抱いて立たせると、そのままドアを開けて中へと導いていく。ドアが音を立てて閉まるや、壁に押し付られ、ワンピースを足元に落とされ、ブラを毟り取られた。ショーツだけの姿、しかしその真ん中には奥まで突っ込まれた張形の柄がはみ出ている無様な姿にされた有紗は、脱がされている間も、それから背後からバストを揉みしだかれてベッドへと歩かされる間も、執拗に唇を吸われていた。