堕天☆行路-2
それははるか昔にたった一度だけ知り得た“悦び”と、忌まわしいまでの“裏切り”の記憶。
《…… 良いのですよ、忠勇なる“矛盾”、いいえ、選りすぐられし稀有な盾よ。あなたに課されし責務は果たされたのです。自らの希(のぞみ)を叶えなさい》
慈悲深い表情を称え麗しい少女は、そうかつての留吉に告げる。
それは天女を守りし“矛盾”が自らの命を賭して尚責務を全うするよう遺伝子レベルに刻み込まれると同義に、本来で在れば上位体である“天女”に唯一課せられた盟約と言えた。
そしてそれは“天女”たちにとって、使い捨ての道具にしか過ぎないはずの“矛盾”たちにとっての微かな希望。
何百年、千数百年、昔なのか?
今となっては、それを知る術は残されていない。
唯一残されしはその血薄めながらも、僅かに残りし“天女”とその従者たちの末裔のみ。
そしてその内に微かに秘めし能力と、与えられた責務を果たそうとする脆弱な記憶のみ。
派遣されし地の遺伝子レベルの制圧……
それが天空より舞い降りた美目麗しい少女たちの本来の目的であった。
その可憐なまでに美しい少女たちを人々は、天女と呼び後世に語り継いだ。
各地に散りし少女たちはその美しさ故、自然と異性の目を惹きその心を虜にする。
ある者は時の権力者に見初められ、陰よりその地方を支配し崩壊へと導く。
またある者は幾千幾万もの男の心を捕えて離さず、労働力や子孫繁栄の能力を徐々に衰えさせていく。
何れにしても美しい少女たちは、常に注目されそして諍いの元となっていく。
しかし真に恐ろしいのはその生殖能力にあった。
《天女よりは、天女しか生まれ出でず》
その地には美しい容姿を受け継いだ、天女の子孫である女のみ残る。
自然と男たちは本来交わりを持つべき、地上の女に関心を示さなくなり、その血は薄れ消えて
いく運命をたどるはずであった。
しかしながらその異変に気付く、心ある者も少数ながら現れはじめる。
彼らは天女の駆逐を試みるも、その行動はすでに予期され準備もされていた。
天女の従者である、矛盾がそれである。
“矛盾”と呼ばれし従者は天女と共にその地に降り立ち、その数は当初天女の数十倍から数百倍と言われた。
矛盾たちは文字通り“盾”となる存在で、その命を賭してでも天女を外敵から守る事を義務付けられている。
矛盾たちの肉体強度レベルは地上人と何ら変わず、戦いにおいてのそれは正に生死をかけるものであった。
また同時に矛盾はその体内に特殊な能力の種子を宿していたが、その能力発現においては天女の身体を媒体としてしか叶わなかった。
能力の発現は“超常の力”と呼ばれ、中には幾つか自然の摂理にそぐわないものすら存在した。
その優れた種子を有する存在を天女たちは“矛”と呼び、自身の存在意義を高める為に欲し求めはじめる。
もっともその様な存在の矛盾は稀で、その大半は天女を守る盾であり単なる道具にしか過ぎなかった。
更に矛盾の役割は天女たちへ生体エネルギー補給も担っており、その行為は地上人の行う“オーラルセックス”の起源とも言えた。
その担う役目から矛盾より上位に位置する天女には、元より特殊な能力が備わっていたが使用にあたっては著しいエネルギー消耗が伴う。
天女の生体エネルギー摂取においては地上人の雄よりも可能ではあったが、その効率は矛盾におけるものと比べると悪く、“能力”を多用する天女において矛盾は“防具”であり“滋養”と言えた。
そして稀有な能力を持つ矛盾から摂取出来る“滋養”には、超常の力を宿す種子が含まれていたが、力そのものを発現させる為には異なった摂取方法が必要であった。
to be continued 〜☆☆ 今回更新は2月24日(火)、次回更新は3月10日(火)を予定しています。
※お詫び(2015年3月15日現在)……こちらは当初3月10日更新予定でしたが、他の掲載作品との兼ね合いで誠に勝手ですが暫くお休みさせていただきます。申し訳ございません。KANより