そして夏休み最高の思い出を-1
【そして夏休み最高の思い出を】
2次会の会場は、貸し切りでパーティーも開催できる少し広めの小洒落たレストランだった。もちろん、今日は貸し切りだった。
ちなみにオレ達高校生のここの会費も、全部新郎の父親が出してくれていた。
着替えに手間取ったこともあり、時間ギリギリにそこに入って行くと、既に新郎新郎を除いた参加者は全て席に付いていた。
「あっ、稲川くんだね、佐々木から聞いてるよ。そこ2人分開けて置いたから取り敢えず座って。新郎新婦が入って来たら、その時は人間アーチで迎えるからね」
受付に座っていた幹事役の人に声を掛けられ、クラスメートが周りを固める中に、そこだけ空いてる席に向かって進んだ。結衣はオレの背中に隠れるように、顔を俯けたまま後ろから付いてきた。
しまった〜。晒し者じゃないか。学校でもそうだが、みんなが席に付いた中で、遅れた者が注目を浴びるのは避けられない。時間を読み間違えて遅れたことを悔やんだ。
「稲川、彼女連れかよ」「お前、いつの間に彼女作ったんだよ」「見せつけるなよなあ」と、からかいの言葉に曖昧に応じながら、ざわつく店内を移動して席に付いた。
すると、今までオレの背中の影に隠れていた結衣がみんなの視線の中に晒された。結衣は注目の中、真っ赤な顔をして俯いた。
「稲川くんの彼女、可愛い〜」
女生徒の1人が言った後、オレ達姉弟を知る者がようやく、それが結衣だと気付いた。
「何だ、稲川の姉ちゃんじゃないか」「ホントだ。テニス部一番の美形の稲川さんじゃないか」「びっくりさせるなよ」「えっ、お姉さんなの?そう言われて見れば良く似てるわね」
周りのざわつきが一瞬で違う種類に変わったので、一応ホッとした。
ごめんな結衣。晒し者にした挙句、改めて姉弟だと知らしめて結衣を傷つける結果となったことを心の中で詫びた。
「紳士淑女の皆様、お待たせしました〜。新郎新婦が到着したようです。皆様、入口から左右に順番に並んでアーチを作って出迎えて下さい」
仲間内に必ず1人は居るお調子者の幹事役の声に、みんなの注目が集まり、ますますホッと安堵した。
幹事役の声を合図に、祝い客は一斉に席を立ち入口の左右に並び始めた。オレ達も少し遅れて席を立った。列の最後に左右で別れて並び、みんなと同じように手を繋いでアーチを作った。握った結衣の手は少し震えていた。
連れて来たのは間違いだったのだろうか。
俯いたまま手を繋ぐ結衣を正面に見ながら、ふとそれが脳裏に過った時に入口の方から『ワーッ』と歓声が聞こえてきた。
そちらに目を移すと、晴れやかに微笑む新郎新婦が、祝いの言葉を掛けられながらアーチをくぐってこちらに近付いてきた。目の前を通り掛かった時に真下が結衣に気付いた。
「結衣さん、来てくれたんだ。ありがとうございます」
「い、いえ、おめでとうございます」
屈託の無い真下の笑みに、結衣もぎこちなく笑顔を返した。
新郎新婦が一段上がった雛壇の席に着くと、みんなが改めて2人に拍手を送った。
「先ずは新郎の挨拶〜〜〜!」
幹事役から手渡されたマイクを手に持ち佐々木の挨拶が始まった。
「え〜、本日は私達夫婦のために、お集まりいただいてありがとうございます。え〜、ご覧の通り、制服姿の未成年も多数参加していますので、オレの友人達は特に酒など勧めることが無いように。そこにいらっしゃる担任の白石先生にご迷惑になるからね」
「気を使っていただいてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。至って真面目な子達ばかりですから」
白石先生の返しに、高校生達はブーイングで応えた。
「なるほど、素直で真面目そうな子しか居ませんね」
場内は沸いた。
「それとこれが一番大事だからよ〜く聞くように。オレの友人達、幾ら可愛いからと言って、ナンパなどはもっての他ですよ。全員未成年者淫行の罪で逮捕されちゃうぞ!」
「お前が言うな!」
幹事役の返しに更に場内が沸いた。