そして夏休み最高の思い出を-3
それを受けて、オレは満面の笑みを浮かべて答えた。
「実はオレ達は本当の姉弟じゃないんだ」
「え―――――!」
場内は更に騒然となった。
「だ、だって、2人ってそっくり…」
本多の疑問は、まさしくオレ達姉弟を長年苦しめたことだった。
「似てるのはもちろん血がつながってるからだよ」
「そうでしょ。だって姉弟だもん」
本多は譲らなかった。
「つながってるけど、それは姉弟ということじゃなくて、従姉弟同士だからなんだよ。オレの本当の母親は、結衣の母親の妹だったんだよ」
「え―――――!」
またもや驚きの大合唱だった。
さっき、オレが差し出し結衣が見て驚いた戸籍謄本がテーブルの上に置かれていた。その戸籍のオレの名前の欄には『養子縁組』と記されていて、養父母として今の父親と母親の名が、そしてアメリカに渡った叔母の名前が実際の母親として記されていた。
どんな理由があったか知らない。オレは生まれて直ぐに、結衣の弟として稲川家の籍に入れられていた。
オレは住民票を上げるついでに、一抹の期待を込めて戸籍謄本を上げていたんだ。直ぐに言えばよかったんだけど、結衣に劇的に喜んで貰うためにウエディングドレスを着て貰った時に言おうと思っていた。それが急遽2次会に誘われたことにより、この席で『本当は姉弟じゃない』の衝撃告白のパート4、そして『交際を公表をする』といったパート5を実行することを考えたんだ。
「と言うことで、オレ達は付き合ってることをここに公表する。色んな弊害はあると思うけど、オレは16歳で花嫁になった真下と、さっき披露宴で勇気を振り絞って本多にキスをした赤木を見て、絶対に乗り越えれる勇気を貰ったんだ」
「お、お前、何言ってんだ!」
突然自分の名前を言われて赤木が狼狽えた。
「オレも見たぞ!披露宴で真っ暗になった時に、お前たちキスしてたじゃないか。真下が入ってきた時の光で見えてたぞ」
それを見ていた他の者からも証言が出た。
「いやああああああ」
本多が真っ赤になった顔を覆った。
「なっちゃん、良かったね。赤木くんが中々キスしてくれないって嘆いてたんだもんね」
真下が楽しそうに友人を茶化した。
「知らない!」
本多が顔を覆ったまま、その場にしゃがみ込んだ。
「こうなったら2組ともキスしかないな」
佐々木が諸々の仕返しとして口にした言葉に、場内は一斉に同意した。
「赤木逃げるな、もう一回みんなの前でしろ!」
その場を逃げようとした赤木が、柔道部の者に抑え込まれた。
「なっちゃん、みんなを纏めたご褒美のキスよ」
「キス―――ッ!、キッス!キッス!」
迷惑な話だが、会場に浮かれたコールが響いた。
「みんな長いのが見たいか〜〜〜!」
「見たい〜〜〜!」
一斉に応じたところに水を差す言葉が届いた。
「ダメよ!高校生が何言ってるのよ。教師の目の前でそんなことは許しませんよ!」
白石先生のその声で晒し者にならなくて済み、オレも本多も赤木もホッと安堵の表情を浮かべた。結衣はいまだにオレの胸に顔を埋めて泣いたままだ。
「え〜〜〜!先生硬すぎるよ〜〜〜」
その言葉に白石先生はにっこり微笑むと、突然両目を手で覆った。
「あっ、何だか目にゴミが入ったみたい。イタタ、これだったらしばらく何も見えないわ。そうねえ、少なくとも1分は何も見えないわ」
「うわあああああ」
白石先生の狙い通り、場内はさっき以上に沸き上がった。
「みんな長いのが見たいか〜!」
「見たい〜〜〜!」
「3組とも見たいか〜〜〜!」
「見たい〜〜〜!」
突然振られた佐々木も苦笑いするしか無かった。
鳴り止まないキッスコールに、本多も赤木も覚悟を決めたようだ。
オレ達は促されるまま、新郎新婦を間に挟み、それぞれが愛する者に唇を重ねた。
「ワ―――ッ!」「大胆〜」「佐々木、千尋ちゃんに圧されてるぞ」「稲川、舌を絡ませ過ぎだぞ」「赤木は舌を入れるんじゃないぞ、お前にはまだ早い」
その歓声は優に1分を越えていた。
「ねえ、もう目のゴミが取れたんだけど、まだ目を開けちゃダメなの〜」
明らかに指の間からこの光景を見ていた白石先生の声が、仲間達の笑いを誘った。
この日、新郎新婦は元より、オレと結衣、赤木と本多、そしてこの日を一緒に真下を祝った仲間達にとっては、生涯忘れることのできない夏休みの思い出の日になったことだろう。
「お前ら長過ぎ〜」
幹事役の声は、悩んだ分だけもう少し無視することにした。