そして夏休み最高の思い出を-2
新郎の挨拶が終わると、いきなりキスコールが沸き上がった。もう少し後にするとは思ったが、盛り上がった勢いのままだから、このまま実行しないと納まりが付かないだろう。
チラリと結衣の様子を見ると、周りに合わせて声を上げていたので、オレも盛大に手を叩いて盛り上げた。
新郎新婦がその気になって目を合わすと、幹事役が場内に向かって声を張り上げた。
「ちょっと待った〜、みんな長いのが見たいか〜」
「見たい〜!」
幹事役のお約束の言葉に、場内が一斉に応えた。
2人は照れ笑いを浮かべながら、熱く長い口づけを交わした。
「お前ら、いつまでやってんだ〜!」
これもお約束の幹事役の掛け声に場内は沸いた。
2次会はそのまま進行していった。オレは結衣に気を使い、結衣は結衣でオレに気を使わせないように振る舞った。ビュッフェスタイルの料理を取りに行ったり、周りから聞かれたことに笑顔で応えていた。
しかし、それも長くは続かなかった。もう一度、料理を取りに行った結衣は、そのまま戻って来ずに、広い店の隅っこの空席のテ−ブル席に1人でポツンと座っていた。それに気付いたオレは直ぐに結衣の元に急いだ。
「どうした?」
オレが声を掛けると、結衣は俯いたままで少し湿った声で答えた。
「ごめん裕樹くん、やっぱり堪えられないよ…」
「ごめんな…」
「うんうん、こっちこそごめんなさい。心から祝おうと思うんだけど、そう思えば思うほど、千尋さんが羨ましくて、妬ましくて…」
俯いた結衣の目から涙がポツリと落ちた。
「あたし、こんな自分が嫌になって…。そしたらみんなの所に行けなくなって…。ううっ…」
必死に涙を堪える結衣が不憫になった。そんな結衣に、今こそオレは言うべきことを伝えることにした。
「結衣、今から夏休みの思い出作りパート4を伝えるよ。これは凄く大事なことだからしっかりと受け止めて欲しい」
「ううっ、こんな気持ちのままじゃ聞けないよう…」
「いいや、これを知ればそんな気分は吹っ飛ぶし、心から真下のことも祝えるようになるんだ」
「そんなの無理だよ…。どうやっても裕樹くんと結婚できないし、みんなに恋人ですって公表もできないんだよ…」
結衣は顔を上げて真っ赤になった目でオレを見つめた。オレはそんな結衣の目の前に、さっき手提げから取り出したあるモノを差し出した。
「これを見て。一生忘れることができない夏休みの思い出作りになるはずだ」
結衣は促されるままオレの手からそれを受け取り、それに目を通した。見る見る内に結衣の目が驚きで広がり、涙が次々に溢れてきた。
「どうだ?パート4、気に入ってくれたかな?」
結衣はオレの言葉に、抱き付くことで応えた。
「裕樹くん、大好き!」
どうやらパート4を気に入ってくれたようだ。頭の思考回路が吹っ飛んだ結衣は、場所もわきまえずにオレの胸の中でわんわんと号泣していた。
幾ら広い店の端と言っても、2人のこの行為はみんなの目を引いた。
「お前ら姉弟で何やってんだよ」
その声に、佐々木と真下が目を見開いて驚いていた。まさかオレたちが姉弟だとは思わなかったんだろうな。
真下の驚きの表情を見て、オレはこのまま、夏休みの思い出作りパート5を実行しようと思った。結衣との交際をみんなに認めて貰うことを。
「佐々木さん、せっかくのお二人の祝いの席なのにすみません。オレ達に少しだけ時間を下さい」
「いいけど…」
困惑顔の佐々木もそう答えるしかないようだ。
「みんなも聞いてくれ。実はオレと結衣は付き合ってるんだ」
オレの言葉を聞いて場内が騒然となった。佐々木は元より、真下も白石先生も本多も赤木さえも目を見開いて驚いていた。
「だ、だって2人は血の繋がった姉弟なのよ…」
白石先生が辛うじてそれを口にした。