思い出作りパート3-3
「うん。結衣ってんだ。結衣、こちらが新婚ほやほやの佐々木浩太さんと、佐々木千尋さん。実はここのブライダルコーナーは佐々木さんに紹介して貰ったんだよ」
「そ、そうなの…」
ここ数日の間、複雑な思いを抱いていた2人の突然の登場に、結衣は驚くばかりでどんな顔をしていいのか検討もつかなかったみたいだ。
「はじめまして。稲川くんのクラスメートの佐々木千尋です。きゃあ『佐々木千尋』って言っちゃった〜。この名前で挨拶するのは結衣さんが初めてなんですよ」
相手の心の葛藤を知る由もない真下は、屈託なく結衣に声を掛けて1人盛り上がっていた。
はしゃぐ真下にお構いなく、佐々木の方は笑顔のままでオレの両肩に手を置くと、ギュッと力任せに掴んできた。
「それはそうと稲川くん。さっきは心の籠ったお祝いの言葉をありがとうな」
「イテテ…、す、すみません…」
やっぱりやり過ぎたかも…。どうやら『おっさん』呼ばわりしたことを根に持ってるようだ。オレは顔をひきつらせながら謝った。
「あはは、冗談だよ冗談。『佐々木は人気者だな』って、あれで上司が喜んじゃって、反対に感謝したいくらいだよ」
「そ、そうなんですか…」
やっぱり気さくな人でよかった。
「そうだ!稲川くん、せっかくだから結衣さんにも2次会来て貰ったらどうだろう」
「うわあ、いいんじゃない。結衣さん、ご迷惑じゃ無かったら来て下さいませんか」
佐々木の突然の提案に、真下が直ぐに賛意を示した。
「突然人数が増えても大丈夫ですか?」
断る口実を少し考えて言ってみた。
「いいのいいの、2次会の場所は知り合いのところだし、直ぐに幹事に電話しとくから大丈夫大丈夫」
佐々木は気さくに応じた。
ここで佐々木の申し出を断ってしまうと気まずくなる。さっき、結衣に大事なことを言おうと思っていたが、もう少し延ばすことにした。
「結衣、せっかくだから行こうよ」
「う、うん…」
オレは誘いの言葉を掛けると、結衣は曖昧に頷いた。
「じゃあ、2次会で」
佐々木夫婦が去り、オレ達も着替えを済ますと、口数の少なくなった結衣を連れて2次会の場所に向かった。