思い出作りパート3-2
「いいだろ?オレが結衣のウェディングドレス姿を見たくなったんだから、オレのために着て欲しいだよ」
結衣の目を見て真面目な顔をして頼んだ。いつもエッチなことを頼む時にもこうしている。
「裕樹くんがそう言うなら…」
我ながらこの効果に感心した。
「そうそう、せっかく段取りしたんだから、一緒に思い出作りしよ」
「うん」
結衣がぎこちなくではあったが、今日初めての笑顔を見せてくれた。
取り敢えず、オレのは方は適当でいいから、メインの結衣のドレスを選ばなくてはならない。しかし恋に恋する少女は素晴らしい。何着も並ぶ花嫁衣装を見ている内に、ようやく結衣の表情が明るくなってきた。
「どうかな?」「どう思う?」「似合うかなあ?」
結衣がオレの反応を見ながらその都度聞いてくるので「いいよ」「可愛いと思うよ」「似合う似合う」と返して、しばらく恋人同士のやり取りを楽しんだ。
「どっちにするか裕樹くんが選んで」
ああでも無いこうでも無いと言いながら、何とか2つに絞った中から、最後はオレに選択しろと結衣に迫られた。
「えっ?おれが?」
「だってあたしのウエディングドレス姿を見たかったんでしょ」
困った。こんなのを選ぶセンスはオレにはないぞ。結局、さっき結衣が時間を掛けて見ていた方を選ぶことにした。
「じゃあこっち。こっちの方が結衣に似合いそう」
オレの言葉に結衣はにんまりと微笑んだ。
「やっぱりこっちが可愛いよね。じゃあ、こっちでお願いします」
正解を選んだオレはホッと安堵した。
オレの衣装はすんなり決まり、2人揃って併設するスタジオに移動した、プロのカメラマンの指示通りにポーズを決め、結構な枚数のカットの撮影をして貰った。撮影中、結衣の表情が嬉しそうにしていたので、オレも嬉しかった。
カメラマンによるその撮影が終わると、無理にお願いしてオレのスマホを使って撮影して貰った。
スマホに写った2人の写真を見たとき、今まで明るかった結衣の表情が一瞬沈んだのをオレは見逃さなかった。 幾ら表面上で着飾っても、結局この姿の2人が真下のように祝って貰えないことを、やかり結衣は気に病んでいるようだった。
「結衣…」
オレは結衣の今の心痛を思って少し罪悪感を覚えた。
幾ら豪華なドレスで着飾っても、それを見て祝福する者が居なくては全く意味は無かった。幾ら幸せそうに写真に納まっていても、それを飾る場所がなければ空しいだけだ。
オレに気を使って無理に笑顔に戻ろうとする結衣に、オレはあることを打ち明けようと思い、真剣な目をして結衣を見つめた。
「結衣、大事な話があるんだ」
するとその時、一段落した佐々木と真下、いや、佐々木夫人がオレ達の様子を見にスタジオに顔を覗かせた。
「おっ!稲川くん、中々決まってるじゃないか!それに君の彼女も綺麗だなあ」
「きゃあ、稲川くんの彼女なの?凄く可愛い人じゃない。彼女居るって全然知らなかったよ」
真下、いや佐々木夫人は…。面倒だから真下でいいや。真下は結衣がオレの姉であることは知らなかったようだ。部活の時もバトミントン部は屋内、テニス部は屋外なので、顔を合わす機会もそうそうは無かったのだろう。