愛人は人妻、そしてその娘が・・・-5
6.
週末に、梨花が本を買いに行くので、一緒に神保町まで行ってくれと誘われた。本を買うと言うのは言い訳で、本当は二人だけで話がしたかったようだ。
書泉、東京堂、三省堂を回って3冊ほど買うと、三省堂脇のミロンガという喫茶店に入った。真一の学生時代からの行きつけだ。
「ご相談したいんです。年が明ければ卒業で、就活も最終段階なんだけど、私は何もしていません。真一さん、私と結婚してください」
「ええっ、それは又急な話だなあ」
「私は、高校生のころから、真一さんのお嫁さんになろうと決めていました。大学も、4年制に行くと卒業までに真一さんが他の人と結婚をしてしまうかもしれないので、早く卒業できる短大にしたんです。もし結婚をしてくれないなら、わたし自殺します」
本気で自殺するとは思えないが、何か恋愛小説で読んだのだろう。
母親に似ておっとりとした性格に、いつも笑顔を絶やさない可愛い娘が、今は笑顔が消えて、真剣な眼差しで真一を見据えている。
思えば、勉強を見てあげるようになって、梨花は必要以上に身体を寄せてくる時があった。梨花の胸元から漏れてくる女の匂いに、勃起するペニスの処置に困ったこともある。が、母親の真世との秘めた営みで、梨花への欲望が爆発することなく済んでいた。
憎からず想っている梨花に、こうまで想いの丈を告白されては、男冥利に尽きるというものだ。
幸い、真世との根回しも出来ている。
「分かったよ。結婚しよう。僕も梨花が好きだ。結婚のことも考えてはいたんだよ」
「うれしい、うれしいわ、真一さん」
梨花の面に、何時ものニコニコ顔が戻ってきた。
御茶ノ水界隈のレストランで、二人だけのささやかな婚約デイナーを取った。学生時代から行きつけのキッチンだ。赤ワインの乾杯で、気分は申し分なく盛り上がった。
「私、今夜は帰りたくないわ。真一さんと一緒にいたいの」
「うん、ぼくもそうしたいけど、お母さんが心配するし、婚前交渉して来ましたなんて言えないよ」
「でも、口だけでなく、約束して欲しいのよ」
「梨花、生理はいつ済んだ」
「もうだいぶ経つから、そろそろ次が始まるわ」
「じゃあ、今日は安全日だな。今日、僕の奥さんになってもらうけれど、いいんだね」
キッチンを出てJR御茶ノ水駅に向かう。
梨花は、真一の腕にすがり付いて、掴んだ幸せを放したくないといった風情。
大塚駅で降りた。池袋だと、知り合いに見られる恐れがあった。
ホテルの裏口から入った。
前払いをしてキーを受け取り、エレベーターで部屋に向かう。