同級生の結婚-3
キャンドルサービスが終わり、新郎新婦紹介、ウエディングケーキ入刀、祝辞、乾杯の後は食事と歓談の時間へと続いた。歓談の時間は女生徒たちが一緒に写真を撮ろうとして、新郎新婦に殺到した。
クラスメート達に囲まれ、ウエディングドレス姿で幸せそうに笑う真下を見て、結衣のことを思い浮かべた。結衣にもこんな表情でウエディングドレスを着て貰いたいと切に願った。
お色直しの時間になり、新郎新婦が退場した。場内は真下の衣装のことで女生徒達が感想を述べ合いざわついていた。
真下から幸せのお裾分けを貰ったのか、上気した女生徒達は不思議と普段より可愛く見えた。そんな女生徒達を改めて意識して見ていた男子生徒も居たようだ。ふと、このことに感化されて、今日を機会に複数のカップルが誕生しそうだなと想像した。
白無垢姿の真下が入場し、また場内が湧いた。
式はその後も賑やかなままに進行し、真下の両親への感謝の手紙を読む時間となった。緊張気味の真下が手紙を取り出し、それを読み始めた。
「天国のお母さん…」
その出だしでいきなり真下がつまずいた。涙を流した顔を伏せ、嗚咽で言葉にならなかった。 その姿を前に、普段明るい真下が母親の他界の悲しさを心の中に秘めていたことを改めて知り、何だか胸を締めつけられる思いがした。
「千尋、大丈夫よ、ゆっくりでいいから」
本多が優しく励ますと、それに続いて次々にクラスメート達が励ましの声を掛けた。オレ達の励ます姿を見て、真下の父親を始め、横に立つおばさん、そして真下の祖父母まで感極まって嗚咽を堪えていた。
皆の励ましを受けて、真下がが嗚咽を堪えながら続けた。
―天国のお母さん、そのお母さんが大好きなお父さん。
今日、私は2人の親友の浩太にいのお嫁さんになりました。浩太にいがどんな人か説明しなくていいよね。2人が18年間も親友で有り続けられた通り、とてもステキな人なので心配はしないでね。
お母さんが天国に行ってから『千尋の花嫁姿を見せたかった』がお父さんの口癖になったよね。でも大丈夫だよ。楽しいことが大好きだったお母さんは、絶対に見てくれてるから。
若しかしたらそれを見たくなったお母さんが、天国から応援に来たから結婚できたかもって思ってるくらいだよ。
千尋はお父さんとお母さんのように、浩太にいと一緒にいつも笑いの絶えない家庭を築きます。だからお父さんは孫を抱きながら、お母さんは天国で、今まで通りに温かく見守っていてね。
16年間、育ててくれてありがとうございました。
16年間、ずっと愛してくれてありがとうございました。
千尋は幸せになります―
時々つっかえたり、嗚咽で聞き取り難いところも有ったが、一人の少女の人生を目の当たりにしたクラスメート達の涙を誘った。
『花嫁姿を見せたかった』
真下の手紙の中のこの言葉がオレの心にズンと響いた。結衣の名前には『人の心を結びつけて優しく包み込む』という意味がある。これは母親に聞いたことがあった。オレはふとそれとは別に『結婚式の衣装』の文字を結衣の名前から読み取ってしまった。
オレを育ててくれた両親に対して、オレは果たして結衣の花嫁衣装を見せることが出来るのだろうか。