声に惹かれゆく-3
〜声に惹かれゆく〜3
コンコン…コンコン…
シーーーーン…
(…まだ寝てるの?…)
「蓮ー入るよー!!」
声と同時に扉をあけ、ベッドで丸まっている弟へダイブ!!
「なんだよ!起こすなよ!」
「だって今日は蓮が洗濯する日でしょーが!ねーね、あのデザート食べてもい?」
デザート…。昨夜のことが頭をよぎる。いつもなら気にしないこの状態に、後ろめたさから目を合わせられないのだ。
「アレ椿の分。昨日買ってたの忘れてた!つか重い。胸見えそーだけど、見せてんの?」
相変わらずの悪態をつき、昨夜のことを悟られない様にしているのだ。
そんな心境だと知るはずもない椿。
「ねーちゃんと呼べ!」
「休みの日くらいユッタリしてたいの!仕方ないブラ付けるか…?
あっ!もしかして興奮して立っちゃった?!」
そうフザけながら布団を剥ぎ取ろうとする。
「男は朝立ちすんの!弟いぢめて遊ぶな…。ふぁーーあ。起きるから退いて!」
「うわぁ。可愛くない弟だな…。お昼一緒に食べるなら、作るけどいるー?」
「いる!」
“よしっ!”と言わんばかりに、布団を叩き鼻唄を鳴らしながら椿はキッチンへ向かった。
「なんか久しぶりに休みかぶったな!隆二くん今日来ねーの?」
「今日、隆二仕事だもん。」
一瞬、椿の顔が曇った気がした。
「蓮は彼女いないの?休みなのに家で過ごす姉弟て悲しー。」
「ベースの手入れするんだよ俺は!彼女つくるヒマないの!」
「モテる奴は言うことが違うね!気づいたら、あっという間にオジサンだよ!」
「うるせー!」
賑やかに姉弟仲良く昼食をとる。
年子で1才しか変わらない為か、恋愛でも、ちょっぴりエッチな話でも、何でも話せる友達以上の強い味方だ。
昼食を終えソファーでくつろぎ、ベースの手入れをしている蓮の横にヒョイっと座る。
「忙しーのに休みになると、
何していーのかわからない!
ねー、ボーカルなのにベースやるの?」
「歌う時は弾かないけど、ボーカルでも楽器できる奴いるよ!」
「ふーーん!」
「おまえ聞いておいて全く興味ねーだろ?ギタリストけっこう凄いんだぞ?」
蓮はニヤけ椿の目の前に2本の指をクイックイッとしてみせた。
姉をからかうのなんて簡単だ。
「変態!!!!」
なんのことを言っているのか手付きでわかってしまったのだ。
それと同時に蓮も男であること認識させられ、焦り、照れを感じてしまう椿。
そんな様子を目の当たりすると、蓮は昨夜の甘い声を思い出してしまい、墓穴を掘った…。わざとらしくベースに集中しようするのである。
「あのね…隆二とはもうダメかもなー…。」
先程と打って変わり曇った顔で体育座りをしながら顔を下げていた。
「いきなり話変わったな。浮気でもされた?」
「わからない。最近連絡来なくなったし、かけてもほとんど“寝てたごめん。”とかのメールしか来ない。」
「……。忙しいだけぢゃん?」
(…だから付き合うのやめとけ!と言ったのに。どう見てもチャラチャラしてるだろーが。)
隆二を嫌いな訳ではない。交際前に“口説かれている”と惚気を散々聞かされ、本人は逆上せ上がっていたが、蓮はあまりいい印象がないのであった。
「なんか嫌な予感しかしなーい。」
「気にしすぎんなよ?」
そう言って頭をポンポンとした蓮。
どちらが上かわからない。
「弟の癖に生意気ー!」
笑いながらいつもの椿に戻ったその時、携帯のメール音が響いた。
携帯画面を確認するなり、すぐさま自室へ行ってしまったが、こもったっきり出てこない。もう夕方を過ぎ、外は真っ暗だ。
コンコン…
「ねーちゃん?夕飯どーする?」
「ぐすん…ぐす…」
(…泣いてる?…)
「どーした?ねーちゃん?」
扉を開け中へ入り、どんなに悪態をついても弟。泣いている姉を心配してしまうのだ。
「別れたいって…メール…」
「ぐすん…」
「理由知らねーけど、そんな泣くと明日仕事いけねー顔になるぞ?」
くしゃくしゃっと頭を撫でた。
気は強いが昔から泣き虫な姉。母親に“様子見てこい!”と急かされ、すっかり慰め方も知っている。
深呼吸して落ち着いた椿はおもむろに
「蓮て女の子イカせたことある?」
「はっ?!」
泣いていた姉からの質問とは思えず、ポカーン!としていると、慌てて訂正しようとする椿。
「違うの!あのね、男の人としてイッたことないの。
それで…演技してるのバレてて“嫌だ!”て言われて、
あまりエッチしなくなって…。
好きな子できたから別れたいって…。」
また目に涙を浮かべはじめた。