物好き-1
『物好き』
誰しも生きていく上で少なからず悩みを抱えている。私、桜井めぐみもその一人だ。就職活動真っ只中の私はどっちつかずな自分の立場に嫌気がさしていた。のんきな学生生活をおくるだけの時間も社会人になるための心構えをする時間もないからだ。
そんな悩みを抱えているとは知らずに、一個下の彼氏の神崎裕也は毎日サークルにバイトにと相変わらずのほほんとした生活を送っている。このままだと私が社会人になったとき考え方の違いでダメになってしまうのでは……なんて考えてたある日。
『俺、結婚するならめぐとしたい!!』
久しぶりの電話がそれか……と思いながら元カレの話しを聞く。社会人一年目の秋山直人。高校時代に付き合っていたが、先に大学生となった直人が遠距離恋愛中に浮気し破局。時間が経ち友達に戻ったものの、彼氏ができてからは私から連絡をとることはなかった。
『知ってると思うけど今彼氏いるし別れる気ないから。』
下手に気を持たせるよりもはっきり言ったほうがいいに決まってる。それが裕也、直人の二人に対して一番誠実な答えだから。
『おー、そうやったな。そういえば最近何してんの?』
いつもと同じ脈絡のない話。まぁ、そっちのほうが直人らしい。最近の近況報告もかねてたわいもない話しをした。就職活動の愚痴や人間関係のトラブルなどストレス解消がてらに。一通り話した後…
『昔からいろんなこと深く考え込みすぎ!まっ、それもめぐのいいとこなんやけどね。』
大学生になってから誰も気付かなかった私のくせ。明るくいつも元気な私の意外な一面。自分でも気付かない間にいろんなこと考え込んでしまうこと覚えててくれたの?
『で、いつなったら彼氏と別れるの?別れたら報告してな(笑)』
まだ言うかこいつは。見直した私がバカだった…。でも……。
『まぁ、相談くらいのってやるから!ちゃんと相談できるやつもあんまおらんやろ?』
全部お見通ししか…。自分でも気付かない悩みを気付いてくれる人なんてそうそういないよ。あー直人はなんで気付いてくれるんだろ?
『あんなことなかったら今頃まだ付き合ってたかな?』
答えはYESだろうな、たぶん…。直人は裕也よりも私を深く理解してくれてるから。私の悪いくせも全てわかったうえで必要としてくれているから。でももう遅いよ、後悔しても。今はもう違う道歩んでるんだもん。
『俺、後三年間は誰とも結婚する気ないから。』
本当物好き。直人なら新しい彼女くらいすぐ見つかるのに。そっちのほうが待つより簡単でしょ?でも浮気しても直人を許してしまう私自身一番の物好きか……。ダメだな。
裕也と付き合って一年半。辛いとき悲しいとき支えてもらった。だから裕也と別れるなんて選択はできないよ。でも、もし裕也とダメになってその時に物好きがいたらその時は好きになってもいいかな?