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衛星和誌 −Qカップ姉妹−
【SF 官能小説】

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ジェニファー語り(10)-1

 ――ナディーカさまから、話があるから執務室にと呼ばれていた。
(明後日の手はずだろう‥‥。わたしも――)
 闘志の炎を燃やしながら、わたしは、姫の元に向かった。
 しかし――。ここでまた、些細でも個人的でもない、重大事が待ち受けていた。
「調教士殿を、帰還?」
 思いもかけない指令に、ナディーカさまの執務室で、わたしは素っ頓狂な声をあげることになっていた。簡単な会議が開けるほどの広い部屋で、ナディーカさまが背にした大きな窓からは、地平に沈む母なる木星の巨大な姿が見えた。広い木星圏と言えど、「ジ・オフィス」といえば、ただ一室、この部屋のことを指す。
 執務室オフィスではあるが、事実上、ナディーカ姫さまの居室のようにもなっていた。「ジュピター・スリー・ガニメデ」と表記されているこのスガーニー星の平面球形地図、木星系全体の概念地図‥‥実用というよりは調度品としての意味合いが強いが、それでも姫の高い意識を示している。ここで姫は日夜、全木星圏のことを考えておられるのだ。その判断を、わたしは信頼している。しかし‥‥。
「ジェニー‥‥!」
 ナディーカさまは、しーっと唇に人差し指を立ててわたしを睨んだ。わたしは慌てて自分の口を押さえた。ふたりきりだったので大丈夫だったが‥‥。
 今夜は、コンジャンクション前のディナーの予定があった。姫、そしてわたしと、あの調教士の男、そしてリリアも交えての壮行の正餐ディナーのはずだった。ところがなんと、姫は、そのわがほうの調教士を、今夜中に、元いた世界へ帰還させるというのだ! わたしにそれをやれと‥‥。
 勝負の前に‥‥。
「姫さま‥‥、なぜ、そのような‥‥」
 たとえ暗殺だろうと、スガーニーのためになるなら、わたしが実行するのはかまわない。しかし、とうてい理解できぬ成り行きに、わたしはうろたえるばかりだった。
「お聞きなさい。以前まえから考えていたことです。今日、決心がつきました。オイオのあの調教士の、情けない風を見て‥‥。あれなら、われらは調教士抜きでも、勝てます」
 ナディーカさまは、その幼ささえ残るお美しい風貌のなかに、王位に就く者の威厳すら見せた。以前からと‥‥気まぐれや思いつきではないということか。しかし‥‥。
「理由は、いくつかあります‥‥。まず第一に、わたしのリリィの調教、調整は、調教士あの男も自慢するように、完璧です。もう終わっているのです‥‥。これ以上、あの男の手で引き出されるみだらさものはないでしょう。ならば、あのオイオの女たちへの責め以外に、もうあの男の仕事はないでしょう?」
「――‥‥。つまり、用済みだと。そういうことですか?」
 姫はクスッと小さく笑い、涼しげな、しかし悪戯っぽい目でわたしを見た。
「まあまあ。聞こえの悪いこと。“翡翠ひすい姫”ナディーカ・クセルクセスが、そんな人でなしだと?」
 姫は、微笑のなかにも残酷さを見せた。これがこの方だ。だからわたしはお仕えしている。世界を動かすには、ときに冷徹さも必要なのだから。わたしは姫の前に跪いた。
「す、すみません。お許しください‥‥」
「有能で、わたしに尽くしてくれるジェニー。最近は多くの仕事を覚えて、ますます頼もしい――。けれど、お口のほうが少し悪いようね‥‥。お仕置きが必要ということ‥‥かしら?」
 その意味するところを知り、わたしはゾッとした。あの黒調教士おとこに胸をまさぐられたときの記憶が、悪寒とともに蘇った。そして、ありとあらゆる格好で調教されていたリリアの姿も。あの艶かしい嬌声‥‥。わたしも、拘束されて女体からだを弄られたら、ああなってしまうのだろうか‥‥。
「そ、それは‥‥。お、お許し下さいっ。失言でしたっ‥‥」
「‥‥‥‥」
「姫さま‥‥ナディーカさまになら――わたしは、どんな責め、どんな恥辱にも耐えてみせ‥‥かまいませんっ。よ、よろしければ、この場でっ。――ど、どうぞっ! お好きなようにっ!」
 わたしは、胸元を外し、上衣を脱ぎにかかった。パフォーマンスではない。もちろん恥ずかしさはあるが、姫に何をされるとしても、あの男にまさぐられるよりは数百倍ましだった。
 両腋に手をやる。バチン! 音を立てて拘束ブラの止め金が外れた。ちなみに、標準重力である。このナディーカさまの執務室は、部屋単独で重力の変更が可能だが、いまはそうなのだ。
 裸の胸に空気を感じた。わたしは嬲られる覚悟を決めた。‥‥が、姫は手でわたしを制した。
「ちょっと‥‥! いいわよ、脱がなくて。――ほんの冗談です。それをしまいなさい‥‥。いつも難しい顔をしているから、ちょっとからかってみただけですよ。――第二は‥‥ジェニー、あなたは軍人ですね?」
「は? ――は、そうであります、が‥‥」
 ブラジャーと上衣を戻し、胸元を直すわたしに、ナディーカさまは真面目な顔で続けた。
「軍人は、戦闘に勝てばいい‥‥。しかし、ナディーカは、政治家なのです。勝ち負けだけを単純に考えるわけには――いえ、今回の勝負、わがスガーニーはもちろん勝たねばなりませんが、しかし、ただ勝つだけではだめなのです。より重要なのは、勝ち方と、勝った後のほうなのです」


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