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衛星和誌 −Qカップ姉妹−
【SF 官能小説】

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ジェニファー語り(9)-1

「ありがとうございました。お陰で助かりました‥‥」
 わたしが枷を外して身を横たえると、リリアは、美しい目にうっすらと涙をにじませながら、わたしに言った。リリアの乳房は、無残に赤く腫れていた。幸い、皮膚は切れていないようだったので、わたしは上衣をその胸にそっとかけた。リリアはしゃがみ込んだわたしに、
「ジェニファーさま、お優しいのですね」
と、クッションを枕に微笑みかける。あんな目に遭わされたばかりだというのに、まったく出来た女性ひとだ。わたしは何か言わねばと思いながら、彼女の顔を拭いた。
「姫を‥‥悪く思わないでくれ」
 あんまり非道ひどかったからさ、どういたしまして、別にあんたのためじゃないよ‥‥いろいろな文句が頭をよぎったが、口をついて出たのはそういう言葉だった。
「大義‥‥。姫さまはあのお歳でスガーニーを、いやこの木星圏を、双肩に背負っておられる‥‥」
「はい‥‥。承知しております」
 メイドの彼女がどこまで「承知して」いるかはわからなかったが、わたしは聞き返すことはしなかった。精一杯、言葉を探した。
「あの細い肩で、だ。現在の木星圏だけではない、歴史も、そして未来も‥‥。その重責で、少しお疲れになっていらっしゃるんだ。本当は、心のお広いお方なのだ‥‥」
 言いながら、わたしは歯がゆさを覚えていた。高位の軍人であるわたしが話せることは、あまりにも限られていた。しかし、リリアはちいさく頷き、わたしをじっと見つめて、言ったのだった。
「本当、姫さま想いなのですね。頼もしい限りです‥‥」
 そう言われて、わたしは胸を打たれ、また、照れた。だからリリアの虐待された胸を見て、
「可哀相に‥‥。――自動担架オートストレッチャーを呼んでくる。大丈夫だと思うが、万一、内出血してるかもしれないから、念のためオートドックで診てもらえ」
と言って立ち上がったのだった。リリアはわたしに何か言おうとしたが、わたしは、
「すぐ来させるから、それまで安静にしてるんだ」
と、背を向けた。内心、あの男への怒りが渦を巻いていて、彼女に見られるべきではないと思った。わたしはナディーカさまに仕え、そしてナディーカさまはあの男を重用している。そこを壊すことはできない――‥‥握った拳は、リリアに見られたかもしれなかった。
 ――リリアの調教はその後も順調に進み、そして明後日にコンジャンクションを控える現在いまに至ったのだった。
 リリアのこと以外でも、わたしとあの調教士のソリは、合わなかった。最近も、オイオに送るといって、わたしも工場集団ザヴォーズが製作した騎士甲冑を着せられ、写真を撮られた。姫さまの命令でもあったし、それ自体は全然構わなかった。が、こんなことに、何の意味があるのかはわからない。

 わたしが語ることは、これくらいだろう。後は、些細な、個人的な話だ。
 姉さまからはメイルが来ていたのだが、あるときから放っておいた。たまたま外的な要因による事情が重なり、実際にも出しにくくなったのだが、わたしは以前から煩わしさを覚えており、これは責任ある立場の人間としては大きな声では言えないが、その事態はむしろ都合がよかった。
 わたしにはナディーカさまの大切な軍隊を預かる、いまの日々がある。フカリスでの少女時代のことなど、もう遠い日々だ。姉妹の縁など、その忘却すべき日々の残遺にすぎないのだ。
 忘却といえば‥‥逆に、忘れるべきでない記憶もあった。
(ルリア――ルリア・ミアヘレナ‥‥)
 忘れたくても忘れられない、が正確なのかもしれない‥‥。
(イシドラの戦鬼‥‥。オイオの黒瑪瑙めのう――。女騎士ルリア‥‥!)
 あれは、第二次トゥーロパ戦役‥‥。もう数年前になるが、ついこの間のことのようだ。
 クーデターにより追われたトゥーロパ政府の要請で派遣された、われわれ連合軍。その前に立ちはだかった反乱武装勢力。わけても手ごわかったのが、わたしと同じくいまよりも若い、あの女の率いる部隊だった。最終的にはわが軍の勝利に終わったものの、幾度も苦杯を舐めさせられ、損害ゆえにわたしの所属部隊は、改組という名の事実上の解体に追い込まれたのだった。
 一方で戦闘での功績が認められ、わたしは現在の地位への出世の階段をのぼれるようになったのだが、軍人としてのわたしにはきわめて苦い思い出だった。
 直接参加するわけではないが、わたしもわたしなりに、明後日からの決戦コンジャンクションに闘志を燃やした。これは、わたしとあの女の対決でもあるのだ。


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