愛しているから-6
それから数分後。
バタバタと部屋を出て行ったのとは対照的に、音もなく部屋に入ってきた彼女。
布団の上で脚を放り出す格好で座り込んでいた俺の前にやって来ると、沙織はそのままストンと正座をした。
「沙織?」
名前を呼んでも、視線をあちこちに泳がせ、空返事をする彼女はどう見ても挙動不審。
頬を染める彼女を見て、思う。
……女の子だし、やっぱり怖いんだろうか。
男と違って女の初めてはかなり痛いとよく聞く。
痛いし、男と違って裸になるのは抵抗あるだろうし、初めてはよっぽどの覚悟がないとできないと思う。
人差し指でしきりに唇をなぞる沙織を見て、俺はゆっくり息を吸い込んだ。
「……沙織、怖いなら無理しないでいいよ」
「え?」
「そりゃ、俺は沙織とこのまま……ってスケベ心はあるけど、怖がるのを無理矢理ヤるほど鬼じゃないから。
俺は沙織とこうして戻れただけで充分なんだ」
これは、嘘偽りない、俺のホントの気持ち。
手放して、もう取り返しがつかないと思っていた俺にとって、沙織がこうして側にいてくれるだけでもうこれ以上の贅沢は言えない。
“いつかは”なんて期待は、もちろんある。
でも、それは自然の流れに任せて、お互いが本当にいいと思った時に……。
「倫平、違うの!」
突然大きな声を出す沙織を、目をまん丸くして見つめると、彼女は真っ赤な顔で申し訳なさそうに目をフイッと逸らした。
「……沙織?」
「違うの、怖いんじゃないの……」
弱々しく首を振りながら否定する。
そして、瞳を潤ませながら、彼女は消え入りそうな声で、
「……来ちゃったの、アレが」
と、ボソッと言うのだった。