愛しているから-5
「はいはい、そこまでで勘弁してあげて」
沙織がまるで騒がしいクラスを宥める先生のようにポンポンと手を叩く。
すると修は不貞腐れながらも、掴んでいた襟元から乱暴に手を離した。
「倫平がヘタレなんじゃないのよ? 昨夜、確かにあたし達はそういう雰囲気になった」
「さ、沙織!」
慌てて沙織を止めるけど、彼女は恬として恥じることなく話を続ける。
女の子の方が、肝がすわると堂々とするんだなんて、キング・オブ・ヘタレの俺はニッと笑う彼女をオロオロしながら眺めていた。
「たくさんキスをして、二人してお布団に横になって、いよいよ……って思ってたんだけどさ。
来ちゃったのよ、アレが」
「あ……」
修も歩仁内も察したらしく、日に焼けた肌にさらに赤みがさす。
……そう、甘い初体験になるはずだった昨夜は、沙織に生理が来たので不発に終わったのだ。
◇ ◇ ◇
一端触れてしまえば歯止めが利かなくなるってわかっていた。
でもあの時は、沙織を自分のものにしたい、そんな想いでいっぱいで、きっと彼女も同じ気持ちでいてくれて。
だから、俺はゆっくり沙織を押し倒したのだ。
何度もキスをして、震える手で恐る恐る彼女の身体に触れて。
相変わらずのヘタレっぷりだっだけど、ふと漏れる、沙織の高く控えめな色っぽい声が俺に火をつけた。
瞬時に反応した身体に、理性なんてもうどこかに吹っ飛んで。
もう二人の間を隔てるものは布1枚だってイヤだと、俺はハアハアと息を荒げながら沙織の服に手をかけた……のだが。
「倫平、待って!」
さっきまでトロンとしていた沙織の瞳が突然カッと開いて、彼女のマシュマロみたいな胸に埋めようとする俺の顔を思いっきり押し退ける。
「は、はおり……?」
つか、指が思いっきり俺の鼻の穴に入ってるよ!
フガフガする俺だけど、沙織はそんなこと全く気付かないようで、
「ごめん、倫平! ちょっと待ってて!」
と、それだけを言い残し、あっという間に部屋を出て行った。
「なんだ……?」
部屋に残されたのは、口をあんぐりと開けたままの俺。
沙織が開け放したドアからムンとした熱気が、ただ頬を撫でるのだった。