愛しているから-4
まあ何だかんだ言っても、きまり悪そうに肩をすくませる修と、それを腕を組んで冗談ぽく睨む沙織を見てると、よかったと思う。
前みたいに、大切な友達と彼女がいる、幸せな日常に。
そんな二人を眺めてニコニコしているうちに、それに気付いた沙織が口を開く。
「倫平、教えてあげたら?」
「「え!?」」
俺より早く、修と歩仁内が顔を上げる。
「教えてあげたら、って何を……?」
「だから、昨夜のこと」
「え、だってマズくないか!?」
ギョッとして彼女を見るけど、至って涼しい顔。
「平気だよ、あたしは」
そうは言っても、唇が強張ってうまく動かない。
脇の下が汗でじっとり湿る、そんな俺を、
「いいよ、オレ達は本気であれこれ聞きたかった訳じゃなくて、ただ倫平を冷やかしたかっただけで……」
と、修が作り笑いでやんわり制してくる。
「そうだよ、それに女の子からすればこういう話題は嫌だろ?」
歩仁内もそう言うけれど、二人してオドオドしてるのは、沙織があまりに堂々としているからか。
そんな二人にクスクス笑いながら、俺の代わりに沙織が口を開いた。
「……ヤッてないよ」
「「は?」」
少し大きめな声で、二人は俺と沙織をと見こう見する。
その動作が気持ちいいくらい揃っているので、俺もまたクスクス笑い出してしまった。
「そういうこ……」
皆まで言わないうちに、またあのグレープ風味の甘い匂いが鼻を掠める。
「お前、ヤッてないってどういうことだよ!」
気付けばTシャツの襟をグイッと引っ張られ、目をつり上げた修の顔が目の前にあった。
「お、修、落ち着いて……」
そう宥めつつ、なんとか歩仁内に助けてもらおうと横目で奴の姿を探すけれど。
「そうだよ、一晩中二人きりなんて、これ以上のチャンスないだろう!?
それでも手を出さないなんてヘタレにも程があるだろ!!」
と、歩仁内まで修に加勢する始末。
つか、なんでお前らがキレるんだよ。
そう言いたかったけれど、この剣幕を目の前にすると何も言えなくなる。
「信じらんねー、このキングオブヘタレ!」
「もう一生童貞でいろ!」
「さ、沙織ー、コイツら何とかして!」
好き勝手喚く二人を前に、チラリと沙織を見ると、すごく楽しそうにお腹を抱えて大笑いしていた。