愛しているから-11
沙織が離れてしまった不安だけじゃない。
修にも愛想を尽かされた時は、生きた心地がしないくらい胸がざわついた。
大切な人達が離れていくのは、身を切られるくらい辛いものなんだ。
それを知った俺は、もう同じ轍は踏むまいと、下唇を噛んで、腕を組んでいた沙織に向き直った。
「倫平?」
キョトンと首を傾げて見上げる沙織。
もう、絶対離したくない。
そして、ずっとずっと大切にするから。
そう心の中で決意をした俺は、
「俺らも手伝いに行こう」
と、ニッコリ笑いかけ、みんなの後を追いかけた。
……その時。
「ん?」
沙織の手を引いて、コテージに入ろうとしたのだが、進む足が何だか重い。
不思議に思って沙織の方を振り返った俺は、そのまま目を見開いていた。
それもそのはず、俺が手を引いていたのとは逆の手を、州作さんが掴んでいたから。
「あ、あの……」
片方は俺、もう片方は州作さんに手を掴まれていた沙織は、戸惑いながらも州作さんの方を向く。
すると、当の州作さんは眩しく輝く白い歯を見せてニッと笑った。
そして奴は。
「身引いてやるんだしさあ、これくらいいいよね?」
「え?」
と、一瞬だけ俺を見てから、沙織のつるんとした頬にキスをしたのだ。
見間違いか? ふとそう思ったけど。
でも、何度瞬きをしても、ほっぺにキスをして満足そうにしている州作さんと、真っ赤な顔で呆然と立ち尽くす沙織の姿は変わらなくて。
次第に俺は、カーッと頭に血が上っていくのを感じていた。
「ああああのっ……!!」
「沙織ちゃん? また大山くんに泣かされそうになったらいつでもオレんとこ来てね」
沙織の肩をポンポン叩いて、そう言い終えると、奴は俺をチラリと見て、
「そういうことだから」
と耳元で囁いて、そしてコテージの方へ歩いていった。
……あんの野郎!!
こういう場面じゃ、恋に破れた敵役ってのは潔く去るもんじゃないのか!?
見れば、掃き出し窓からみんなが俺を見て、ニヤニヤしていて、隣の沙織は未だに真っ赤な顔でキスをされた方の頬を手で抑えたりなんかして。
「ちっくしょーーー!!!」
沙織を巡る戦いに勝ったはずの俺は、ぬるい潮風を受けながら、ただただその場で地団駄を踏むのだった。
〜end〜