結衣の感情-2
「何よ、何か言ってよ。黙ってたら本当にそんな関係だって思っちゃうじゃない」
オレ達が黙っていると、詰問していた真弓の方が少し慌て始めた。
「だ、誰にも言わないで」
心に余裕のある時なら、もう少し違うことが言えただろうが、心が不安定な状態が続いたこともあり、根が正直な結衣はそれを認めてしまった。
「へっ、マジなの…」
驚いた真弓が目を見開いてオレ達を見つめた。
「ま、まさかエッチはして無いでしょうね」
続けざまに、男女間で一番気になることを聞かれた。これも後ろめたさの余りに、咄嗟に言葉が出ずに俯いてしまった。何も言い返せない状況は、肯定していることと同じだった。
「うそでしょ!あなた達姉弟なのよ。それがどういうことかわかってるの。姉弟で愛し合うなんて異常よ」
友人同士の間には遠慮は無く、呆れ返った真弓が詰問口調で『姉弟』であることを強調した。流石にオレが否定しようとした時、そのことで悩んでいた結衣が先に反応した。
「そんなことわかってるわよ。だから苦しいんじゃない。でもね、好きで好きでしょうがないのよ。幾らダメだと思っても、それ以上に好きな気持ちが大きいのよ。真弓に迷惑を掛けたわけないじゃないから放っといてよ!」
人目を憚らず結衣の高ぶった声が響いた。
「結衣…」
「ちょ、ちょっと結衣、落ち着いてよ」
オレは結衣の激しい反応に戸惑い、真弓は慌てた。
「だって、だって…」
言葉が続かず、結衣は顔を被って泣き出した。オレはそんな結衣を庇うように抱き締めると、結衣はオレの胸に顔を埋めて泣き続けた。
結衣を責め立てた真弓に怒りをぶつけて追い払おうと思ったが、2人の間にしこりを残すことは結衣のためにならない。オレは2、3度呼吸を整えて何とか声を荒げるのを留まった。
「ごめん、最近結衣は色々考えすぎて、気持ちが高ぶってるんだ」
「こっちこそごめんなさい。ちょっとびっくりしたからなの。結衣、ごめんね。でも裕樹くん、今のことって本当なの」
結衣に声を掛けてから、改めて真弓がオレに確認を求めてきた。今更否定しても仕方ないので素直に認めることにした。
「うん…」
「参ったわね」
友人の異常な関係を目の当たりにして、それが正直な感想だろう。
「あ〜あ。知ってた?あたし、まだ裕樹くんのこと好きだったんだよ。結衣に聞いても誰と付き合ってるか知らないって言うから、少し希望を持ってたんだけどなあ。でも、これって失恋確定ってことだよね」
オレに向かって場を和ますように真弓はつぶやいた。
「ごめんね。真弓の気持ちを知りながら黙ってて」
真弓のつぶやきに、少し落ち着いた結衣が泣き顔を上げて、申し訳無さそうに謝った。
「まあ、弟の恋人が自分だなんて普通言えないよね」
「やっぱり、それって変だよね。こんな異常な友達って嫌だよね」
結衣は自分を卑下しながら、顔を俯けた。
「う〜ん、どうだろ。改めて聞かれても不思議と嫌な感じはしないかな」
「どうして!」
ずっと悩んでいた結衣は、真弓の言葉に食いついた。
「う〜ん、エッチな投稿告白サイトみたいな、肉欲だけのドロドロしたところがないからかな。さっき後ろから見てたけど、結衣が裕樹くんを見上げる雰囲気なんて、普通の恋人以上に愛情が籠ってたもん。幾ら好きでもあたしにはあんな感じは出せないよ」
「だって本当に好きなんだもん」